第8話  樹と融

文字数 1,257文字

もうすぐ待ちに待った連休が始まるぞという4月後半。
正確に言うなら、4月19日(金)。
連休は珠衣に用があると融が言った。
樹は珠衣に行くのなら自分も行くとごねたが、佐伯が来るから絶対にダメと言い渡した。
樹は驚いた。

「何で由瑞さんが来るの?えっ?一体何事?初めてじゃないの?珠衣に来るの」
「だから、前回話をした重要な客が連休に来るんだってさ。訳アリな客だと小夜子が言っていた。」
融はぼかして言う。嘘は言っていない。
「訳アリな客って?・・・どんな訳?」
樹は尋ねた。
「詳しい話はまだ聞いていない。客は佐伯がらみの人らしい」
融は答える。
「佐伯がらみ?」
「佐伯の元カノの友人だとさ」

樹は以前渋谷で二人に出逢った事を思い出した。
「・・・・由瑞さん、別れちゃったの?」
「そうらしいよ」
「そうか・・・。で、何でその友人が来るの?」
「見学だって」
「見学?」
「そう」
「神社?」
「そう。その周辺。奥の院とか。滝とか。兎に角、俺はその客の案内をしなくちゃならない。知っていると思うけれど、あの辺りは圏外だから。電話、通じないよ。何か用が有ったら、小夜子の家電に電話して」
融は予防線を張る。

「ふうん・・・。そっか。由瑞さん、来るのか・・・」
「会いたい?」
融は言った。
「ふふふ」
樹は笑う。
「会わせない。俺だってアイツには会いたくない」
融は言う。

樹はにこりと笑って融の膝に乗る。
「だって、親戚だもの、会わない訳には行かないよね?」
「会っていい事ないから」
「おや?そう言う言い方は良くないよね。可愛い史有君のお兄さんなんだから」
樹はそう言うと融の胸に頭を凭れ掛けた。
目を閉じて言う。
「連休、潰れちゃうかな?」
「いや。そんなに掛からないと思う。三日もあれば済むよ。終わったらすぐに帰って来るから、どこかに遊びに行こう」
「うん」


「何を考えているの?」
融はそう言うと、樹の顔を覗き込む。
「佐伯の事?」
「ううん」
「嘘を付くな」
樹はふふっと笑う。

「何?その笑い。ちょっと煽っている感じなんですけれど。言って置くけれど、他の男にそんな顔は見せないでくれよ」
「そんな阿保な事を言うのは融君だけだよ。融君だって、誰にだって優しいじゃん。私以外の人にだってさ。いつかどこかの女が『別れてくれ』ってやって来るんじゃないかと思うんだけど」
「そんな訳が無いでしょう。関係の無い女に優しくしてどうすんの?」

「それに俺は君一筋だし」
融は耳元で囁く。

融は樹の顎に手を掛けて顔を上げると、口付けをする。樹は両腕を融の首に回す。
二人の舌が絡まり、口付けはいつまでも終わらない。
「子供が欲しいなって思っていたの。阿子ちゃんみたいな女の子」
樹も融の耳元で囁く。
「俺も欲しい」
融は樹の首筋に唇を這わせる。片手は樹のシャツの裾から背中に入る。肌に触れる。片手でブラのホックを外す。
大きくて温かい手。それが胸に回る。
「融君。このままベッドまで運んでくれてもいいよ」
「じゃあ、そう言って頼んで」
「このまま連れて行ってください。お願いします」
「あれ?やけに素直」
融はそう言って笑うと樹を抱き上げた。
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