第23話 伝説のアイテム

文字数 2,129文字





 ――ニャオ☆チュール――




 それは野良猫界隈(のらねこかいわい)でも名の知られている、とびきりウマイと評判の食べ物だ。



 運よく口にできた者は、自慢げに仲間に話す。







オレはニャオ☆チュールを食ったぜ!



にゃにぃ!?



あのニャオ☆チュールを食っただとぉ!


ニャオ☆チュールは、あのカリカリと音がするキャットフードよりウマイのか!?



そんなはずはないにゃ! 

ササミやニボシのほうが美味に決まってるにゃ!



いや、オメェらはとんだ思い違いをしているぜ。

あれはそういった類の食い物じゃねぇ


一度なめたら止まらない、マタタビにもまさる依存性……


ハラがいっぱいになってもつい食っちまう、別腹フラグを誘発する嗜好性……


いうならば、

ニャオ☆チュールとはスイーツだ!



スッ――



スイーツ!?



……たしかに、ニャオ☆チュールはおやつに最適と聞いたことがあるにゃ



それで、肝心の味はどうなのだ!?



ハッ! そんなもんウマイに決まってんだろ!


実際に味わえばわかる。

あれは死ぬ前にもう一度食べたくなる味だぜ



クッ、クッソォォォォォォーーーーーー!


自分だけウマウマと抜けがけしおってっ……!



ズルイにゃ! ズルイにゃ!


仲間外れにしてやるにゃ~~~~~~っ!





 といった具合に、ニャオ☆チュールを食べた者は仲間内から激しい嫉妬を受けかねない。



 それほど魅力的な食べ物なのだ。




 その伝説のアイテムを、あの人間は所持している……!




いま開けるからね~



ゴクリ……!




 自分の思いとは裏腹に、固唾を呑み成り行きを見つめてしまう。



 ニャオ☆チュールの封を切った途端、周囲の空気が一変した。



なっ……!?

なんという食欲をそそる香り……!



ほーら、おいで。

チュール、あげるよ~



じゅるり


じゅるり




 早々に魔性の香りに引き寄せられる子どもたち。



待てっ!

メデア! イソルダ!



止まらニャい


止まらニャい



くっ……!

子どもたちに我慢を強いるのは無理な話か




 メデアとイソルダは食い気に釣られて人間に近づくと、我先にと絞りだされたチュールに口をつけた。



なんにゃこれは~~~~~~~~~~っ!?


まさに究極、ニャ~~~~~~ウ!



そっ、そんなにウマイのかっ……!



ウマイにゃ~!


極上、ニャウ~!




 メデアもイソルダも舌が止まらず、無我夢中でチュールをなめている。



そっちの猫ちゃんも、遠慮してないで食べて~




 中年女性はおれのほうへ歩み寄ると、さらにもう1本ニャオ☆チュールを前掛けのポケットから取り出した。



 最初のニャオ☆チュールを子どもたちに食べさせたまま、2本目をおれのほうへ近づけてくる。



ほらほら~



ぐぬぬぬぬっ!

おれは食べんぞ、食べんぞ~~~~~っっ!



我慢しなくていいのよ~



よせっ、近づけるな!




 中年女性は、手にしたニャオ☆チュールを左右に振った。



 動きとニオイのダブル誘惑に釣られて、口をひらいてしまいそうになる。



ペロペロするとおいしいよ~




 言いながら中年女性はニャオ☆チュールのスティックを軽く押した。



 ニュルリと中身のとび出したチュールをおれの鼻先へ寄せる。



 心の中で魔物が囁きだした。



……………………………………食べてしまえ!




 一瞬、心が揺れる。



ええい、惑うな! 

所詮ただの液体ではないか!


おれの強固な意志で築きあげた壁は、決して溶かされはせん!




 おれは顔をプイと背けると、押し寄せる食欲との戦いに全神経を集中させた。



さすが、神!

ニャオ☆チュールの誘惑に負けず、頑なに拒否しておられる……!


しかし、神猫様!

我慢は体に毒ですぞ!



うううううううううう!

うるさ~~~~い!




 葛藤するうちに激しい憤りが湧きあがっていた。



 渦巻く欲求を放出する勢いで、天に向かって叫ぶ。



おれには元ボス猫としてのプライドがあるのだっ!


この女は我が妻をさらった憎むべき存在――!


そのような人間から与えられた食事になど、絶対に口をつけるわけにはいか~~~~~んっっっ!




 すると、天が我が声に応えてくれたのだろうか。



 耳を通じて、求めてやまない者が語りかけてきた。



あなた――?


あなた、近くにいるの――!?




 どこからか聴こえてくるのは、妻とおぼしきかすれ気味の細い声。



間違いない、イザベラの声だ!

やはり、イザベラはこの付近にいる!




 おれは近隣の住宅に目を走らせた。



 意識が切り替わって、たちまち食に対する欲求など彼方に遠のいていく。



メデアとイソルダ!

いつまでも食べている場合じゃない! 


イザベラのもとにゆくぞ!



ニャウ!


ニャウニャウ!




 ふたりはチュールから離れつつも、舌に残った味を楽しむかのように口まわりをペロペロしている。



 ニャオ☆チュールへの未練が感じられなくもないが、おれが走り出すと子どもたちはしっかり後ろについてきてくれた。



ああああ~~~っ!

待ってください~~~! 

お猫様方~~~~~っ!



待たぬ!

イザベラを見つけ出すのが先だっ!




 もはや顧みることなく、ひたすらに坂道を駆け上がっていく。


 

あなた……!




 待っていてくれ、イザベラ!



 おまえのことは必ず、おれが見つけ出してみせるから――!
















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登場人物紹介

紅 

ねこねこファイアー組の元ボス猫。

亡き友人であり部下でもあったオス猫に、妻のイザベラとその子どもたちを託され、結婚することになった。

夫婦仲は良好で近々子ども産まれる予定だが、生活は苦しく、落ち着ける居場所を求めている。

ワケあって住処を離れることとなったので、家族と共に町へ向かうが……。


イザベラ 

紅の妻。メデアとイソルダの母猫。

メデアとイソルダは、亡き夫とのあいだにできた子ども。亡き夫はねこねこファイアー組の幹部のひとりだったが、ニャニャ丸組との抗争により深手を負い、他界した。

知性的な猫であり、ドアノブに手を伸ばして開けることもできる。

メデア 

紅夫婦の娘。

生まれたての頃は甘えん坊だった。弟に冷めたツッコミを入れることが多いが、逆にからかわれることも。

紅が父猫になるまではボスとして遠巻きに眺めるだけだったので、なかなか同居になじめなかったが、共に行動することで次第に心をひらいてゆく。

イソルダ 

紅夫婦の息子。

幼いころから体つきが丸く、運動嫌いが拍車をかけ、筋肉量の少ない体形はぷよんとしている。

スコティッシュフォールドのミックスだった父猫の影響を受け、片方だけ折れ耳。

口癖に「ニャウ」を多用する。調子に乗って姉のメデアをからかい、反撃を浴びることもしばしば。

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