第23話 伝説のアイテム
文字数 2,129文字
――ニャオ☆チュール――
それは
運よく口にできた者は、自慢げに仲間に話す。
といった具合に、ニャオ☆チュールを食べた者は仲間内から激しい嫉妬を受けかねない。
それほど魅力的な食べ物なのだ。
その伝説のアイテムを、あの人間は所持している……!
自分の思いとは裏腹に、固唾を呑み成り行きを見つめてしまう。
ニャオ☆チュールの封を切った途端、周囲の空気が一変した。
早々に魔性の香りに引き寄せられる子どもたち。
メデアもイソルダも舌が止まらず、無我夢中でチュールをなめている。
中年女性はおれのほうへ歩み寄ると、さらにもう1本ニャオ☆チュールを前掛けのポケットから取り出した。
最初のニャオ☆チュールを子どもたちに食べさせたまま、2本目をおれのほうへ近づけてくる。
中年女性は、手にしたニャオ☆チュールを左右に振った。
動きとニオイのダブル誘惑に釣られて、口をひらいてしまいそうになる。
言いながら中年女性はニャオ☆チュールのスティックを軽く押した。
ニュルリと中身のとび出したチュールをおれの鼻先へ寄せる。
心の中で魔物が囁きだした。
一瞬、心が揺れる。
おれは顔をプイと背けると、押し寄せる食欲との戦いに全神経を集中させた。
葛藤するうちに激しい憤りが湧きあがっていた。
渦巻く欲求を放出する勢いで、天に向かって叫ぶ。
すると、天が我が声に応えてくれたのだろうか。
耳を通じて、求めてやまない者が語りかけてきた。
どこからか聴こえてくるのは、妻とおぼしきかすれ気味の細い声。
おれは近隣の住宅に目を走らせた。
意識が切り替わって、たちまち食に対する欲求など彼方に遠のいていく。
ふたりはチュールから離れつつも、舌に残った味を楽しむかのように口まわりをペロペロしている。
ニャオ☆チュールへの未練が感じられなくもないが、おれが走り出すと子どもたちはしっかり後ろについてきてくれた。
待っていてくれ、イザベラ!
おまえのことは必ず、おれが見つけ出してみせるから――!
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