第135話 予期せぬ再会
文字数 2,581文字
柴犬のパンフーからの遠隔呼び出し。
突然の出来事に戸惑っていると――
柴犬パンフーが再び話しかけてきた。
相変わらず口調はやわらかで、緊迫感はまったく感じられない。
何の用だろうと小首を傾げたとき、パンフーの声がさらに響いてきた。
おれの声は相手に届いていない。けれどもパンフーがタイミングよく説明してくれたので、会話が成立したようになる。
耳を澄ますと、かすかに足の爪がアスファルトをこする音が聞こえた。
犬が足音を立てるのは、猫にはない特徴の一つでもある。
身をひるがえしてリビングを出ると、階段を駆け上がった。
見晴らしのいい通路沿いの出窓に跳び乗り、外の様子を眺める。
曇り空の下、坂道をのぼってくる犬がいた。遠目にはわかりづらいが、柴犬のようだ。
それを先頭に、背の高さの異なる人間たちがこの『マジカル・ニャワンダ』へと接近していた。
一匹の犬と三人の人間たちは、坂道を進んで建物の玄関先へ近づいていく。
ピンポーン!
来客を告げるチャイムが鳴ると、階下でオーハラたちが動き出した。
おれは足早に階段へ戻って、柵の内側から成り行きを見つめる。
パンフーは手足を拭いてもらい、飼い主たちに同行してリビングへ向かう。
その途中、階段の柵から様子見しているおれに気づいたらしく、挨拶してきた。
……なんとなく、嫌な予感がする。
予感の当否を問いただすより早く、横からファーマがパンフーに話しかけた。
おれたちとのやり取りでパンフーが立ち止まっていると、飼い主が見かねた様子で呼びかけた。
パンフーは飼い主の声に応えて寄っていく。
どうやら人間たちは、まだ柵の内側にいるおれやファーマに気づいてないらしい。
遠巻きに見送りながら、ファーマがしみじみと言う。
リビングでは大人たちによる世間話が繰り広げられていた。
おれはその内容を把握しきれないが、興味をそそる話でないことは明らかだ。
隣にいる人間の子どもたちも似たような感じで、退屈そうにしている。
その子たちは時折何かを物色するように辺りに視線を配っていたが、痺れを切らしたように催促しはじめた。
席を立って移動しはじめる人々。
急激に胸の内で不快感が膨れあがる。
猫部屋には、イザベラと子猫たちがいるのだ。
そこに、ろくに知りもしない人間たちが入るだと?
おれが問いかけた矢先、こちらへ寄ってきた人間たちが話を遮ってきた。
人々はおれたちを見て満足そうに微笑むと、引き続き階段を上がっていった。
その足が2階にさしかかる。
人々を猫部屋のほうに誘導し、廊下を直進していく。
追いかけようと階段を駆け上がるが――
途中でパンフーが立ちふさがってきた。
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