第95話 トライアングル
文字数 2,427文字
足を滑らせたみつきを気遣って、ゼロは声をかける。
よろけて前のめりになるみつき。
ゼロはすばやくミニステップに前足をかけ、彼女の体を受け止めた。
慌てふためくみつきは体を後ろへ引き、ゼロから離れようとする。
みつきの言うとおりだ。
ゼロはあからさまな笑みを浮かべている。
ゼロはニッコリしたまま、みつきの体に手をまわした。
口をひらき、その首根に噛みつこうとする。
おれは床を蹴りつけ、一気に駆け出した。
片手を突き出し、ゼロに跳びかかる。
ゼロは意表を突かれつつも後ろへ跳び
ゼロは後ろに下がりはしたが、着地に失敗して姿勢を崩した。
みつきの行動を封じていた厄介者がその体から離れると、彼女も慌てて動き出す。
みつきはゼロに一撃喰らわせようと、身を乗りだすが――。
いやいや、ちょっと待て!
みつきはおれの進行方向へ突入しようとしていた。
スピードに乗った彼女の体は急な方向転換ができず、そのまま直進してくる。
このままではぶつかる……!
おれは体を逆側にかたむけ、かわそうとするが――
それだけ相手の走る勢いは強すぎたし、スピードも早すぎた。
互いの体が衝突する。
耳元で張りあげられる声は強烈だ。まるで音が暴力的に体内へ侵入してくるかのようだ。
うるさくてしかめた顔にみつきの毛がかかる。
やわらかい……。
毛に次いで、身に迫る衝撃を生暖かい弾力が迎え入れてくれた。
さらに、やわらかい……。
謎のぬくもりの正体を見極めきれぬまま、互いの体はぶつかり合って宙に浮き上がった。
直後、ドンッと何かに衝突する。
おそらく近くの壁に打ちつけられたのだろう。
両目をハッと見開く。
自分の体の上に覆いかぶさるみつきの重みをまじまじと見つめると――
――なんということだっ!
おれはギョッとしてみつきから離れる。
自ら進んで触ったわけではないが、言い訳は禁物だ。
〝こんなときは謝っておくに限る〟というイザベラの言葉を思い出し、おれは即座に謝罪する。
不快ではないが、愉快ではないということか?
しかしみつきの表情は、どことなくうれしそうに見えなくもない。
すると、おれたちのやり取りをそばで見ていたゼロが息巻いてまくし立てた。
ドヤ顔で言いきるゼロに、みつきは起き上がって反論する。
さもおれが悪いように罵倒すると、ゼロは表情を一変させ、甘い顔をみつきへ向ける。
みつきが拒絶したにもかかわらず、ゼロは軽くジャンプして、彼女との距離を詰める。
心の声……。
もしかすると先日ツートンの中に誕生した、エンドレアの影響だろうか。
身に浴びた衝撃に息が詰まる。
全身が縫いつけられたように動かない。
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