第113話 子どもたちvs父の主張

文字数 2,240文字




 突然里親のもとへ行くと言いだしたメデアとイソルダ。



 それを聞いて、おれだけでなくイザベラも動揺し、悲鳴のような声をあげる。



メデア! イソルダ!

本気なの!?



嘘なんてつかないよ



なぜだ!?

なぜそのようなことを急に言いだすのだっ!?



前にアミと大地のビデオメッセージを観たときに思ったんだ。

あたしたちより小さいのに、考え方とか、しっかりしてるなぁって


感心させられた、ニャウ



きっと、さまざまな経験が心の成長につながったのだろうな



つまりそれって、里親に行ったことが影響してるってことじゃん?



まぁ少なからず影響はあったかもしれん。

だが、みんながそうなるわけではないのだぞ



じゃあお父さんは、あたしたちが里親に行っても、なーんにも変化しないし、成長もしないっていうんだ?



そうではないが……


里親になど行かずとも、家族と共に暮らせばよいではないか



家族と共に……?


みんなで暮らす……?



なんだ、その疑うような口調は



家族全員で暮らすっていったって、子猫たちも入れたら8体にもなるんだよ?


みんなこの家に置いてもらえるわけない、ニャウ



う……っ!




 イタイところを突かれてしまった。



それはまぁ、否定できないが……




 現実的な事情を加味すればするほど、子どもたちの指摘は急所を貫くようだった。



 生きていくためには食事を摂らねばならず、その費用はオーハラたちによって(まかな)われている。



 子どもたちとのやり取りを聞いて、イザベラは天井を仰ぎ、溜息まじりにつぶやく。



やっぱり、家族みんなで暮らすのは無理なのかしら……?



無理やな



こら、ファーマ! 

ハッキリ言うなっ!



せやけど、紅さんもわかっとるやろ?



それは……




 むろん、わかっていないわけではない。


 

 けれどまだ気持ちが定まっていないのだ。



 するとシャドーも話に加わって、ファーマの意見に同意する。



以前、ツートン・ゼロが紅にこう告げている




残念でしたー。

我が子をかわいがれるのもいまのうちだよ


どうせみんな、里親に出されるんだからね!




――とな



どうせみんな、里親に出される……!?



いきなりバラさないでくれっっっ!


イザベラはその事実を知らんのだぞっ



……



すまない、イザベラ!

おまえの気持ちを考えると、とても言いだせなかったのだ



いいのよ。

ここに来る前から覚悟はしていたから



ここに来る前から覚悟を!?



そうよ。人と暮らすには試練が伴うものでしょ。

わたしたちにとって何もかもが都合のよいことばかりじゃない


だけど外で生活するより、ずっと穏やかに暮らせるんだもの。

平穏無事に生きられるのは、幸せなことだわ



いずれ子どもたちと別れると承知の上で、おれについてきてくれたのだな



ええ。

子どもたちやあなたたちみんなが幸せに生きられることが、なによりも大事だから



イザベラ……




 おれもそう思って、人のもとへ身を寄せようと決心した。



 こうして誰かを想う気持ちを〝愛〟というのだろうか――。



だけどメデアとイソルダが、自分から里親のもとに行こうと考えていたとは思わなかったわ



あたしたちだってバカじゃないもん。

どうせ里親に出されるなら、前向きに受けたいって思うよ



嫌々(いやいや)受けるのはよくないって?



うん。

元々あたしたちは、ひとり立ちしてもおかしくない年齢だしね


里親に行くのを、子猫みたいにヤダヤダ~ってグズるのは、ちょっと抵抗あるかな



イソルダも同じ気持ちなのか?



ウニャウ。

大地みたいなところに引き取られるなら悪くないかもって思う、ニャウ



本心なのか!?

おれやイザベラと離れ離れになるのだぞ!?



それは嫌だけど……



そうやって嫌とか言ったって、なんにもならないよ


大地だって嫌がってたけど、結局里親のところに行って正解だったじゃん。

アミも満足そうだったしさ



そやなぁ。

そうなったんは、あのコらが自ら行くって、きっちり決断したからやろな



始終嫌だの一点張りだったら、よい結果が出るまでもう少し時間がかかったじゃろう



そうじゃなぁ。

里親に対しても消極的なままだったら、あれほど早く幸せを満喫できることはなかったに違いない



みんなの言うとおりだよ!

嫌がってばかりじゃ、気持ちが落ち込むだけだもん


ちょっとずつ前向きにならないとね!



ムゥ……



それにあの野良猫のコータさんだって、言ってたじゃん。

選択を間違ったって……


自分の将来をちゃんと考えないで、その場の感情に流されちゃったからでしょ



そうかもしれないけど、言い方がよくないわ



言い方なんて気にしてたら、言いたいことも言えなくなるよ


ウニャウ。

失言に気を取られすぎ、ニャウ



おまえはもう少し、その妙な口癖を改めたほうがいいと思うぞ



フニャウ



それはあたしも同意



わたしもよ



フゥニャ~ウ……!



とにかく!

あたしたちはここを出るって決めたから


まだ里親は決まってないけど、いい候補者が見つかったら、そこのおウチに行こうと思ってる



メデア……



ダメだっ!




 と、一回言ってみたところで、まったく気持ちが収まらない。



 おれはヤケクソ気味に同じ言葉を繰り返す。



ダメだっ! 

ダメだっ! 

ダメだっ!








お父さん……。

なんでそんなに反対するの?



おまえたちのことが心配だからに決まっているだろうっ!

これまでの経験をよく思い出してみろ


関わる人間がみな善人とは限らんのだぞ!


得体の知れない人間に、大事なおまえたちのことを任せられるものかっ!




 ピシャリと言い放つと、イザベラがゆっくり瞬きをして同意の気持ちを示してくれた。



 一方……子どもたちは頑として譲らない。



とにかくもう決めたんだから、否定しないでよねっ


温かく見守ってほしい、ニャウ
























ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

紅 

ねこねこファイアー組の元ボス猫。

亡き友人であり部下でもあったオス猫に、妻のイザベラとその子どもたちを託され、結婚することになった。

夫婦仲は良好で近々子ども産まれる予定だが、生活は苦しく、落ち着ける居場所を求めている。

ワケあって住処を離れることとなったので、家族と共に町へ向かうが……。


イザベラ 

紅の妻。メデアとイソルダの母猫。

メデアとイソルダは、亡き夫とのあいだにできた子ども。亡き夫はねこねこファイアー組の幹部のひとりだったが、ニャニャ丸組との抗争により深手を負い、他界した。

知性的な猫であり、ドアノブに手を伸ばして開けることもできる。

メデア 

紅夫婦の娘。

生まれたての頃は甘えん坊だった。弟に冷めたツッコミを入れることが多いが、逆にからかわれることも。

紅が父猫になるまではボスとして遠巻きに眺めるだけだったので、なかなか同居になじめなかったが、共に行動することで次第に心をひらいてゆく。

イソルダ 

紅夫婦の息子。

幼いころから体つきが丸く、運動嫌いが拍車をかけ、筋肉量の少ない体形はぷよんとしている。

スコティッシュフォールドのミックスだった父猫の影響を受け、片方だけ折れ耳。

口癖に「ニャウ」を多用する。調子に乗って姉のメデアをからかい、反撃を浴びることもしばしば。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色