第90話 子どもが生まれ複雑な心境の姉と兄
文字数 3,050文字
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エンドレアたちが部屋を出て行った後――
入れ替わりで戸口に現れたのは、メデアとイソルダだった。
それならおれも耳にしていた。
メデアとイソルダは、不安にくすぶる胸の内を、声をひそめて語らっていたのだ。
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猫はクールといわれるが、親との結びつきが深い生き物だ。
うちの場合それが母猫だけでなく、父猫のおれにも影響している。
新たに子猫が生まれたことで親との関係性が揺らぐかもしれない――と、子どもたちが不安に陥るのも無理はない。
すると、おずおずしながらメデアがおれに問いかけた。
姉のメデアが先に部屋に入ると、弟のイソルダも口を閉ざしたままそれに続く。
ふたりは押し入れの中の板に跳び乗り、そこに広がる敷物の上に両足をのせた。
目の先には4体の子猫がいるはずだが……
ふたりは硬直したまま、うんともすんとも言わない。
おれは子どもたちへ素直な気持ちを語った。
だが、まだ空気がよじれているかのようにギクシャクしている。
イザベラが閉じていたまぶたをひらいて、子どもたちを
ふたりは瞳を潤ませおれのもとに寄ってくる。
喜びあふれるその顔をスリスリとこすりつけてきた。
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ふたりとも額や首回りをおれの体に密着させてニオイづけをする。
スリスリスリスリ……。
スリスリスリスリ……。
それだけでは足りず、お互い競い合うように愛情表現を繰り返しはじめた。
メデアとイソルダは、スリスリを終わらせると改めて子猫のほうに向き直った。
喉をゴロゴロ鳴らし、すっかりご機嫌になっている。
メデアの鼓動がドクンドクンと高鳴っているのが外からでも聞き取れる。
そうやって些細なことに緊張してしまうところも愛らしい。
メデアは緊張した顔をゆっくりと子猫たちのそばへ近づけた。
興奮と緊張に押されながらも、メデアは子猫たちに優しく語りかける。
それから挨拶がてらに、子猫の体を舌先でペロリと舐めた。
イソルダも鼓動を弾ませながら、固い
すると――
それまでおとなしかった子猫たちが一斉に鳴きだした。
瞳の奥がジーンと熱を帯びてくる。
涙をこぼしはしないが言葉にできない感動が胸いっぱいに広がって、幸せな気分だった。
イザベラはいつも繊細におれを配慮してくれる。
その細やかな気くばりがあるから、おれは日々家族のために頑張りつづけられるのかもしれない――
これまで世話になったのは、オーハラ、トラヒコ、それに猫オタの3名だ。
人々から受けた恩をどう返すか――
と、考え始めたところでおれの思考は止まった。
子どもたちが一緒に寝ようと誘ってきたからだ。
子どもたちを踏んでしまわないよう配慮しながら、おれはその場にコロンと横になる。
みんなのぬくもりがあたたかい。
肌に触れる柔らかな熱が徐々に体全体に広がって、幸せの衣のように我が身をつつんでくれた。
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