第100話 頭脳戦に手こずる

文字数 2,280文字





 唐突にツートン・ゼロが、

「頭脳で勝負しよう」などと言いだした。



 正直、イヤな予感しかしない……。



おまえの言う頭脳勝負とは、いったい何なのだ?



クイズだよ


オレとクイズで勝負だ!



クイズ……?



ルールは簡単さ。

オレの出す問題に、オマエが答えて正解すればいいだけだ



それでは最初に問題を出すほうが圧倒的に有利ではないか



え?



クイズに強制参加させるのなら、せめて先に親分様に出題させるべきではござらんか!?



それはダメ! 

絶対に譲らないよ~!



ダメだの譲らないだの、ずいぶん身勝手な話だなっ



とぉ~にかく!

一番は先住猫(せんじゅうねこ)に譲るのがルールなんだから。

新入り猫はしっかり守ってよ!



はぁ……またそれか








やむを得ん。

貴様が先住猫で、おれが新参者(しんざんもの)であることに変わりはない


横暴な意見は聞き入れがたいが、(しか)るべきルールならば従うのがスジというもの。

貴様の要求を受け入れてやる



それでは相手の思う壺です!

窮地に立たされてもよろしいのですか!?



(よう)はヤツの問題に正解すればいいだけのことだ。

うろたえる必要はない



さすが親分様っっっ! 




 みつきは目をキラキラさせて、おれに熱いまなざしを注いでいる。



……




 どういうことだ?



 なぜそれほどまでに瞳を輝かせている?




 たしかみつきは食い物の話が出たときも、こんな顔をしていたはずだ。




 まさか、みつきは……このおれを食い物だと思っているのか!?



親分様、どうなされました?

なぜそのように(いぶか)しげな顔をしておられるのです?



い、いや……



ちょっと、そこ!

さっきから見てればおかしいよ!


ふたりの距離が近いから、みつきはもっと離れて!



嫌でござる!



またまたぁ~。

ホントはオレのそばにいたいくせに



たわけたことをっ!

そのような迷妄(めいもう)極まりない発言は慎むべきであろう!



ハイハイ、じゃあクイズに不正解だったらみつきはこっちに来てね



んなぁぁぁぁぁ!?



(たわむ)れはよせ!

いいから早く出題しろ!



フフ、せっかちだな。

それじゃ問題を出すよ



来るなら来い!



じゃあ飼い猫に関する知識を試す問題を出すとしようか


猫が病院に行くと、針でプスリとワクチンを注射されるよね


そのワクチンって具体的に何なのか、キミに答えられるかな?



ワクチン……?



聞いたことがあるような、ないような……!?



以前病院に連れて行かれて、針でプスリとやられた記憶はあるのだが



そういうのが一番よくないよね~!


注射を刺すほうだけじゃなく、刺されるほうも話をよく聞いて、どんな効果があるのかある程度は把握しておかないとさぁ~



たしかに正論ではあるが、貴様に言われると腹が立つ!


クソッ! 

どうにかしてワクチンの正体を暴きたいが……




 ……正直、正解などサッパリわからん。



ワクチン……。

ワクチン……


ワク……


ハッ! わかり申した! 


親分様!

それはきっと、ワクワクするものに相違ございませぬ!



ワクワク?



はいっ!



ワクワク、か……


しかし()せぬな。

だとしたら、そのままワクワクといえばよいではないか


わざわざ〝ワクチン〟と表現する意味がわからん



それはそうでござるが



考えてもみよ、みつき。

ワクチンという言葉には、〝チン〟という部分もついているのだ


なにゆえこのチンという部分は存在するのだろう。

じっくり考えてみる必要があるとは思わんか?



なるほど。

チン、でございますか



そうだ。

このチンという響きに、おれは何かをビンビンと感じずにはおれんのだ


何かこう……計り知れない秘密というか、(ほとばし)るエネルギーのようなモノが隠されているような気がしてならぬ




 おれとみつきは口をそろえ、ゆっくり噛みしめるようにつぶやく。



チン……



チン……



ワクワク……



チンチン……



二つ合わせると――



ワクワクチンチン……!



え、まさかそれが答えなの?



いや、そういうわけではないが



じゃあ、もう終了。

時間切れ~



なにっ!?

制限時間まであるのか!?



当たり前だろ。

こんな問題一つに時間なんてかけてられないよ



では正解は、なんなのだ!?



ワクチンっていうのは、感染症を予防するために接種するモノのことをいうんだよ


というわけで、クイズに正解できなかったから、この勝負オレの勝ちだね!



クソォ!

このような相手に敗北を期してしまうとは……!


ええい、納得がいかんぞっ!



親分様が知らない問題を出すのは、ズルいでござるよっ!



ズルい? 

無知なのが悪いんだよ


むっちむちむち~♪

むっちっち~♪



おのれ、愚弄(ぐろう)しおって~~~っ!



親分様!

こちらからも問題を出すことにいたしましょう!



問題と言われても、おれにはクイズのネタになりそうなものは何も浮かばんぞ



おまかせくだされ!

拙者、親分様のため、頭を絞るでござる!


うにゅにゅにゅにゅう……!


――!


(ひらめ)いたでござる!



おぉ! でかしたぞ!



ちなみに出題のテーマは、飼い猫に関する知識だからね。

キミに飼い猫のことがわかるの?



飼い猫のことなどわからずとも問題は出せるでござるよ!



へぇぇー、

じゃあどんな問題か、聞かせてほしいな



拙者はジャンプが得意でござる。それでふと思いついたのでござる


飼い猫と野良猫、運動能力にどれくらい違いがあるか、ぜひ答えてくだされ!



え、それは……



答えられるぬと申すなら、負けは必定!

正義の拳を受けるでござるよ!



ちょっと待ってくれ!

そんなの正確に応えられるヤツなんていないよ!


というか仮に答えたところで、誰も正解を知らないんじゃ……?



ハアァァァーーーッ!


これはしたりっ……!




 誰も正解がわからず、誰も答えを導きだせず、おれたちはただただ沈黙するしかなかった……。






















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登場人物紹介

紅 

ねこねこファイアー組の元ボス猫。

亡き友人であり部下でもあったオス猫に、妻のイザベラとその子どもたちを託され、結婚することになった。

夫婦仲は良好で近々子ども産まれる予定だが、生活は苦しく、落ち着ける居場所を求めている。

ワケあって住処を離れることとなったので、家族と共に町へ向かうが……。


イザベラ 

紅の妻。メデアとイソルダの母猫。

メデアとイソルダは、亡き夫とのあいだにできた子ども。亡き夫はねこねこファイアー組の幹部のひとりだったが、ニャニャ丸組との抗争により深手を負い、他界した。

知性的な猫であり、ドアノブに手を伸ばして開けることもできる。

メデア 

紅夫婦の娘。

生まれたての頃は甘えん坊だった。弟に冷めたツッコミを入れることが多いが、逆にからかわれることも。

紅が父猫になるまではボスとして遠巻きに眺めるだけだったので、なかなか同居になじめなかったが、共に行動することで次第に心をひらいてゆく。

イソルダ 

紅夫婦の息子。

幼いころから体つきが丸く、運動嫌いが拍車をかけ、筋肉量の少ない体形はぷよんとしている。

スコティッシュフォールドのミックスだった父猫の影響を受け、片方だけ折れ耳。

口癖に「ニャウ」を多用する。調子に乗って姉のメデアをからかい、反撃を浴びることもしばしば。

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