第99話 それぞれの気持ち
文字数 2,977文字
数日経っても、コータの残した言葉はおれの頭に留まりつづけていた。
幾度となく、心を揺さぶられる。
ここを出るか。
それともやめるか――
考えは未だ定まらずにいる。
朝食を済ませ、子猫たちのいる和室に家族みんなで集まっていると、
敷物の上をモゾモゾ動いていたヒスイが、うれしそうな声で鳴きはじめた。
イザベラの乳を飲み終えたばかりで腹は減ってないはずだが……。
何事かと思い、ふっと視線を向ければ――
この世の物とは思えないほど愛らしい瞳だ。
見つめられると、ただそれだで幸せな気持ちにさせてくれる。
イザベラをはじめ、メデアとイソルダもヒスイに微笑みかける。
みんなが子猫たちに向けるまなざしはとても優しい。
ふたりとも子が生まれた直後は動揺していたが、いまではすっかり面倒見のいい姉と兄になってくれている。
イソルダは唇を不満げに動かして、ふてくれたような表情になる。
それを見てメデアは愉快そうにからかった。
メデアとイソルダは、畳にぴょんと跳び下りて小競り合いを始めた。
普段なら元気な子どもたちを見ているだけで楽しくなるのだが、どうにも気分が弾まない。
イザベラはあの場に居合わせなかったが、コータのことは耳で聴いて内容は充分に把握している。
だが、オーハラたちは子猫を里親に出そうとしている。
イザベラはその件について何も知らない。
もしそれを知れば、この家に居続ける道をイザベラが望むだろうか……?
ひとり考え込んでいると、戸口に見慣れた猫が現れた。
おれから視線を逸らし、困ったようにうつむきながらみつきは言う。
おれは押し入れから出て、みつきのあとについていく。
みつきは廊下をコソコソと歩いて階段をのぼっていった。おれを最上階のロフトへと誘導するつもりらしい。
段を上がってロフトに着くと、ふわりとした空気に迎え入れられる。
今日のように天気の良い日だと、窓から射し込む光が淡い床板に反射してまばゆいほどだった。
おれは目を細め、隣にいるみつきへ問いかける。
みつきは両手を揃えてモジモジしながら言いづらそうにしている。
彼女は一体何が言いたいのだろう。
せわしなく視線をチラチラ向けてくるが、肝心の口の動きは重い。
正直なところ、それを話題に出されると気まずい。
顔に触れたみつきの柔らかな感触がよみがえってくるようで、複雑な気持ちになってしまう。
突然、ダダダダダッと砂煙でも起こりそうな足音を立てて、厄介な猫が階段を駆け上がってきた。
おれもみつきも驚いて、この場に跳び込む乱入者に注意を向ける。
なぜにおれがヤツのライバルなのだ……?
ゼロはオレと真っ向から対峙すると、背中を尖らせ指先をひらき、眼光鋭く睨みつけてきた。
ヤル気満々の臨戦体勢だ。
頭脳勝負と切り出され、おれは一瞬言葉に詰まった。
なんとなく不利な状況に追いこまれた気がするのは、気のせいだろうか……?
(ログインが必要です)