第97話 一瞬の運命
文字数 2,540文字
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耳を澄ませば、外に猫の気配を感じた。
だが、その正体まではわからない。
疑問を浮かべるおれの視線の先では、オーハラが涙を流す猫オタに微笑みかけている。
オーハラは動揺のあまり声を詰まらせ軽く咳込んだ。
それを心配そうに見つめながら桃寧が答える。
激高する猫オタの言葉に頷きながら、オーハラは深い溜息をはき出す。
人間同士の会話から詳細を把握するのは難しいが、〝車〟と〝猫〟というキーワードが出てくる時点でおおよその察しはつく。
話の途中で、トラヒコがドアを開けて玄関へ入ってきた。
ファーマに続き、オーハラも無念そうに目を伏せる。
言いながらオーハラはその猫のことが気がかりで仕方ないらしく、靴を履くと慌ただしく外へ出ていった。
ほどなくして、捕獲器が運ばれてきた。
タオルのかかった大きな箱のようなものが、慎重に玄関マットの上に置かれる。
金属の囲いの内から聞こえてくる、苦しげな息づかい。
ゼェゼェ……ゼェゼェ……
心配そうに捕獲器のほうを見ながら、アカリ婆とヒカリ爺も廊下へ出てきた。
珍しくツートンまで様子を見に来ている。
しかし玄関の手前には脱走防止用の柵が張り巡らされているので、一定以上近づくことはできない。
おれはその柵のそばに寄ると、鼻をクンクン働かせた。
捕獲器を覆っていたタオルが外されると、野良猫の姿が明らかになった。
おれは数メートル先にいるその猫を、目を凝らして観察する。
いかにも野良猫らしい発言をしていた場面が、ふと頭に浮かんで……消えていく。
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それまで一年、二年と生きてきたにもかかわらず、一瞬で消える、命……。
ついこのあいだまで彼らは元気そうな姿を見せていた。
それなのに、わずかな期間のうちにこうも劇的に変わってしまうとは……。
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――いや、そうではない。状況は何も変わってはいない。
外の世界は厳しいのだ。
どれだけもがいても、風に吹かれれば木の葉が木から振り落とされていくように、あるべき場所から脱落させられてしまう。
それがおれたち野良猫の生きてきた場所であり、誰しも平等に降りかかる運命なのだ。
名前も知らない野良猫は疲れたのか、しゃべるのをやめて格子にもたれかかった。
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