第141話 丸短のアンチクン②
文字数 2,458文字
「丸短のアンチクン」と名乗るこの小柄な猫が、近所のゴミ捨て場にいたのには理由があった。
彼は引き続き、自身にまつわるエピソードを語る。
と、そこで――
話の途中だったが、オーハラが戻ってきて、アンチクンに食事を与えた。
器に入っているのは、香りの高いウェットフードだ。
アンチクンは、汁気の多い魚のペーストをクンクンと匂って、無言のまま舌先で少量ずつ
空腹だったというわりにがっつくわけでもなく、喜びで満たされている素振りなど微塵もない。
おそらくこのコが飼い主から愛を感じないのは、人間のことを好んでいないからだろう――。
口には出さないが、おれはそう思った。
アンチクンがゴハンを食べているあいだに、そっと廊下へ出る。
西日を受けた床板がテラテラとまばゆく照り輝いている。
自室へ戻ろうと歩き出した矢先、通路に佇むファーマに話しかけられた。
出窓で日向ぼっこをしていたツートンも、起き上がって会話に交ざってくる。
冷静な物腰に能面顔。
たまにシャドーと間違えそうになるが、やたらと影がさしてないからツートンと断定できる。
感心半分からかい半分という感じでファーマが言う。
おれは真に受けず、さらりと返す。
いまのおれが、そうであるように。
いらぬ世話と思いつつ、考えずにはいられない……。
黙考すると、あの猫が保護される前にゴミ捨て場で発していた、苦しげな声が思い出されてきた。
苦しい……。
もうヤダ……。
しんどい……。
それらはすべて、感情によってはき出されたものだ。
当たり前だが、猫にも感情はある。
感情が死んでしまっていない限り、想いはきっと届くはず……。
あのコの状態がよくなることを信じて、おれはその対応策を考えはじめたのだった。
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