第107話 理不尽
文字数 3,358文字
廊下に立ちつくすおれの耳に、ドアの向こう側でやり取りする声が入ってきた。
もれなくドアがひらかれる。
対面にいる子どもたちと、バッチリ目が合った。
メデアとイソルダは、おれを凝視したまま条件反射的に鼻をヒクヒクさせる。
子どもたちの毛がたちまちブワッと膨れ上がる。
怒り口調で叱ると、子どもたちはギョッと怯んだ。
たちまち興奮は沈静化され、逆立っていた毛がボリュームダウンし、ほぼいつも通りの状態へと戻る。
ついに、子どもたちに知られてしまったか……。
去勢という言葉が出てきてしまったので、おれは覚悟を決めて、堂々と子どもたちに正しい情報を伝える。
おれは渋々ながら子どもたちのほうへ尻を向けた。
ニオイの刺激に耐えられず、イザベラと子どもたちは後退り、おれから離れていった。
ケージの中にいる子猫たちだけは動じた様子もなく、スヤスヤと安らかな寝息を立てている。
別におれ自身が臭いのではなく、外部のニオイが付着しているだけなのだが……
どのみち家族にとっては悪臭なので毛嫌いされるのも仕方がない、そう割り切って受け止めるしかないようだ。
人間や、この家の動物たちは、おれをあたたかく出迎えてくれたというのに……。
愚痴ったところでどうにもならないが、ものすごい対応の差を感じなくもない。
有無を言わさず、メデアとイソルダはそそくさと部屋を出て行ってしまった。
イザベラにストップをかけられ、歩みだした足はピタリと止まる。
浮き立つ気持ちに砂をかけられた気分だ……。
イザベラは引きつりがちな表情を顔に張りつかせたまま、視線を出入り口のドアのほうへ向けた。
それくらい、わかっている。
だが――
せっかく去勢までしたのに、これではちっとも家庭円満にならんではないか。
ムッと不満がこみ上げるが、堪えるしかない。
おれは部屋を出て、アテもなく廊下を歩く。
風通しのよい窓辺にドスンッと腰を下ろすと、股をひらき、せっせと毛づくろいをはじめた。
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