第104話 考える猫
文字数 3,707文字
もとをただせば、子どもがさらわれた原因はおれにある。
イザベラが怒るのも当然だ。
ふたりのあいだにかかる重い沈黙……。
しばらくそれに耐えた後、おれは改めてイザベラに謝罪した。
再び沈黙のカーテンが降りる……。
すると、同じ部屋にいるメデアとイソルダが不満気味にこぼしはじめた。
まぁヤツの存在に限っては、子猫の命を脅かされるとまではいかずとも、いろいろな意味で有害であることに変わりはないだろう。
イザベラは言うだけ言って、さっさと子猫たちのいるケージの中へ入っていった。
何か気を静める言葉でも……
と思ったが、声をかけるタイミングを逸したまま、彼女はプイと背を向けて丸くなってしまった。
翌日になっても、イザベラは不機嫌なままだった。
やや陽が高く昇りはじめた頃。
廊下へ出ると、ファーマと鉢合わせた。
ファーマは意味ありげに微笑むと、猫部屋に入っていった。
おれはみつきの待つ小部屋へ向かう。
その小部屋は本来具合のよくない猫が出入りする空間だが、人目につきにくいという理由から、みつきはそこに潜伏するようになった。
おれが部屋を訪れると、みつきは高い棚の上からサッと跳び下りた。
おれのほぼ真向かいに着地し、白い足をキレイにそろえる。
みつきは、またしても言いづらそうにモジモジしはじめた。
あのとき、あの場に乱入したツートン・ゼロは、
「告白なんてさせないよぉ~!」
と息巻いて、みつきの発言を妨げた。
なぜ告白を阻止したかったのだろう?
よほど
まさか、みつきは――
ツートンとふたりして、夜な夜な贅沢なおやつの盗み食いでもしたのではないか!?
ゴマ団子が消えたとはいえ、まだツートンの心の中には食に対する関心の強いマメ大福もいる。
ヤツにそそのかれたみつきが結託して、盗み食いに及ばぬとも限らない……。
口ごもったみつきに聞き返すと、彼女は覚悟を決めたように顔を上げた。
ところが――
みつきの発言は、訪問者たちによって遮られた。
突然、オーハラと娘の
それはケージよりも小さく、硬すぎない素材でつくられた、箱のような入れ物だった。
たしかにオーハラたちの動きはおかしかった。
おれたちをこの部屋に閉じ込めるかのようにドアを閉め、床に置いたバッグの扉をひらく。
まるでその中に誘い込むつもりのようだ。
チュールの魔力に吸い寄せられるように、みつきはオーハラたちのもとへ駆け出していく。
が……!
オーハラは片手を上にあげて、チュールの袋に食いつこうとするみつきから離した。
迷うことなく、おれは一歩を踏み出す。
恐れ知らずの虎のような気分で、病院へと誘うバッグのもとへ
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