第3話 家族のお出かけ
文字数 2,499文字
おれは物陰でじっとしながら、家族の行く末について考える。
妊娠中の妻。食べ盛りの子どもたち。
おれ以外はみんな無傷なので活動に困ることはないが……
野生で生きていけるほど、
だったら、子どもたちだけでも人に託すか?
いや、できれば家族バラバラになりたくはない。
だが、状況は差し迫っている。
このままでは……遠からず餓死してしまう!
しばらくすると、イザベラがやって来た。
おれが眠っているかもしれないと気を遣ってくれているらしく、その足音は徹底して抑えられている。
しばらく見つめ合った後、イザベラは残念そうな顔で、視線をおれの顔や体にめぐらせる。
イザベラはすぐそばの太い管のほうへ移動した。
その下に隠してあったモノをくわえて持ってくる。
もしものときに備えて、イザベラがゴミ捨て場を漁って取ってきてくれたものだ。
逆におれが食事を世話してもらうことになるとは……なんてザマだ。
……と、嘆いたところでどうにもならない。
食糧確保のため縄張りを拡大する夢は、破れてしまったのだ。
今後は新たなる目標に向けて奮起しなくては――!
現状みんなの食糧は、このパサパサになったニボシしかないということか。
こんな町はずれの場所で、急に食料が山ほど得られるわけもない。
やはり餓死は目前に迫っているとみて、間違いはないだろう。
シケたニボシを噛んでいると、イザベラや子どもたちに不自由な暮らしをさせているとつくづく痛感させられる。
そうは言うが、イザベラは人間恐怖症だ。
彼女にしてみれば、町を探索して人を調査をするのは大変なことだっただろう。
それから地下道を出て、廃工場の敷地内を歩いていると、
裏口付近で娘のメデアと、息子のイソルダにばったり出会った。
おれのかわいい子どもたち。
イザベラの連れ子で血の繋がりはないが、愛おしさに変わりはない。
おれに問いかけられて、メデアの顔にわずかな緊張が走る。
嫌々とまではいかないが、メデアはあまり乗り気ではなさそうだ。
正直なところ、メデアはあまりおれになついてない。
イソルダのほうは、同じオスとしておれに憧れをいだいてくれているところもあるが、なついているかというとやはり微妙だ。
わりと露骨に、おれに
けれどもイザベラの言うように、みんなの未来がかかっているのだから見つかるまで捜すべき、とおれも思う。
風は適度に涼しくて、陽射しは暖かい。
家族みんなで出かけるには、悪くない陽気だ。
歩み出した矢先、やわらかな空気の中を泳ぐように、一匹の蝶が羽をヒラヒラ舞わせているのが目についた。
メデアとイソルダは蝶を追って、塀の上に跳び乗る。
道を塞ぐ壁も跳躍ひとつで思いのままだ。
抗争の果て、万事休すと思ったが、未来が
おれには命をかけて守りたい者達がいる。
大切な家族。
みんなを想うだけで生きるエネルギーが湧いてくる。
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