第14話 不穏な動き
文字数 1,856文字
闇にまぎれていたおれの体は、すでに人目に晒されているはずだ。
人間たちはこちらのほうへ明かりを向けながら、ボソボソと囁き合う。
……一体コイツらは何しに来た? ただ写真を撮りに来たのか?
しかし、あのカシャッという音はしていないぞ。
問いかけたところで、言葉の壁が沈黙となってのしかかってくる。
おれの目から人間の姿は、闇に呑まれてほとんど見えたものではない。
声を通じて感じ取れる情報も、せいぜい相手は大人、といった程度にとどまる。
もし攻撃を仕掛けてきたならどう対抗するか、そう考えはじめた矢先のこと――
唐突に人間たちは身をひるがえして、その場を去っていく。
それでいて帰るわけでもなく、人間たちは園内に留まって、ガタガタと耳障りな音を立てだした。
イザベラが茂みの中を抜け出して、おれのそばに寄りながら言った。
好奇心に背中を押され、おれは捕獲器のほうへ歩み出すが――
イザベラの笑顔に微笑みで返しつつも、自分のこと以上に気が張りつめる。
人間たちはもう園内から立ち去っているようだが、かといって安全とは言い切れない。
彼女のことを信じてはいるが、緊張せずにいられなかった。
息苦しさを感じながら、その動きを祈るように見守る。
十数メートル先の捕獲器へ、慎重に進んでいくイザベラ。
金属の囲いへ近づくと、片方の前足をそろーっと動かして、ゆっくりゆっくりと中へ入っていく。
時間をたっぷりとかけて、イザベラはその体を完全に捕獲器の中へと収めてしまった。
いま後ろの扉が閉まれば、彼女は檻の中に幽閉されてしまうだろう。
おれの心配をよそに、イザベラは捕獲器の最奥にある小皿へスッと首を伸ばす。
ニオイを嗅いで吟味したのち、キャットフードに口を寄せ食べはじめた。
カリッカリッ……と、小気味いい音が拍手のように鳴る。
一方捕獲器に仕掛けられていたはずの罠は発動することなく、存在の意義を彼方に押しやられている。
と言いつつも皿の上のキャットフードを半分以上残して、イザベラは捕獲器から出てきた。
喜んだのも束の間だった。
後日、捕獲器は別のモノに変えられていた。
イザベラは困ったように苦笑いを浮かべる。
晴れ間のない空に、不穏な雲がびっしりと垂れこめていた。
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