番外 ある飼い主たちの日常④ 困った猫

文字数 1,870文字



前回同様神視点ですが、いつもと違うと違和感なので紅の吹き出しは右にしています







 オーハラとトラヒコは、みつきのいる小部屋を訪れ、器にドライフードを入れた。



 小部屋の戸口に佇みながら、食事をする彼女を観察する。



最近、みつき……食べすぎだと思うの



うん、太ったね



ガブガブガブガブガブッ!








さすがにあげる量を減らさないと、マズイわ……



でも、どうするんだい?

このコは食い気が強いから、無視するのもなかなか難しいよ


エサをあげないと、ものすごい勢いで柱をかじるし



そうよねぇ。

噛んでも平気そうな柔らかめの物を与えても、やめてくれないしねぇ


そのうち食欲の問題だけじゃなく、歯まで欠けそうで怖いわ



何かいい方法はないかなぁ?



う~ん……



何を悩んでいるのだ?




 開いたドアの隙間から、紅が顔を出した。



 付近にはファーマもいて、長い被毛に覆われたシッポをゆっくり振っている。



あら、神猫様。

仲間の様子を見に来てくれたのかしら?



ギョッ!

親分様がここにっ!?




 みつきは食事をやめ、慌てふためきながら収納棚に飛び乗った。



 跳躍力に問題はなかったが、みつきの体がドンッと棚に乗ったとき、その重みを受けて板がやや揺らぐ。



お、親分様!

あまり拙者を……見ないでくだされ……っ!



いや、もう見てしまったからどうにもできないが……


以前に比べれば飽食になった。

喜びのあまり食べすぎるのはやむを得ないこと。気にするな



親分様……!

みつきのこの姿を見ても、受け入れてくださるのですか!?



受け入れるもなにも、肥えてしまったのだから仕方がない


おまえは昔から体を動かすことが好きだし、痩せようと思えばいつでも取り組めるはず。

そうだろう?



は、はい……!

親分様がそう信じてくださるのなら――



フオオオォォォォォッ!

拙者の凍りついていた心に火がついたでござる~~~っっっ!


食欲に抗い、見事この困難に打ち()ってみせまする~~~っ!



相変わらず、乙女ゴコロは健在やなぁ




 そこへ別の猫が入りこんできた。



 みつきを愛するツートン・ゼロの登場だ。



み、みつき……!




 ゼロはみつきの姿を見て驚愕した。



 が、



 スイッチ一つで感情をオフしたように、たちまちにこやかな表情になる。



まぁ、いいか。

ちょっとくらい丸いほうが、丈夫な子を産めるだろうしね



まだ言ってるのか、おまえは



まっ、前にも言ったはず! 

拙者はおぬしの子を産むつもりは毛頭ないとっ!


第一、拙者はもう不妊手術を受けたでござるよ! 

今後、子を授かることはないでござるっ!



えーーーっ!?

そうだったのっ!?



さよう。

以前、この家の者達にひっそり家から連れ出されたでござる


帰宅後、小部屋に(こも)ったとはいえ、知らぬのは多重猫格であるおぬしだけかと



ふぅん、オレだけのけ者だったんだ。

それは気に食わないけど、まぁいいや




 ゼロはみつきに近づき、頭上にいる彼女を見上げて語りかけた。



大丈夫だよ、みつき。

愛があれば、どんな障害も乗り越えられるんだから


ふたりでいっぱい子作りして、子どもをたくさん作ろう!



いや、さすがに無理やと思うで



そんなことより、おまえは自分の障害をどうにかしろ



同感でござる!




 ゼロは猫たちから冷ややかな視線を浴びた。



 そのやり取りを静かに見ていたトラヒコは首を傾げ、(かたわ)らにいるオーハラに問いかける。



このコたち、なに話してるんだろう?



わからないけど、ケンカが起こりそうな気配はないし、なんだかんだで仲がいいのかもね!



そうだね!



まぁ、そーやなぁ。

みんな仲ええかどうかはなんとも言えへんけど――




 ファーマがオーハラたちの足元へ寄って、スリッと体をこすりつける。



アタシは、二人のことも好きやで♡



あら、ファーマ。

甘えてきてくれるのね~



かわいいね~




 オーハラとトラヒコはファーマの頭と体をやさしく撫でた。



 それを見て、みつきがやや申し訳なさそうに顔を伏せる。



迷惑ばかりかけて申し訳ないでござる。

拙者はまだ人にうまく甘えられないでござる……



そんなんいまだけや。

アンタもいつかは、人と仲ようできる日が来るで



おれがとやかく言える立場じゃないが、どんな猫でも人と仲良くなれると思うぞ


おまえだって例外じゃない



その前にオレと仲良くして!



嫌でござる!



あはは。

いま、みつきがツートンを叱っているみたいに鳴いたわ



フラレちゃったのかな



いつの間にそんな仲になってたんだか



なんにせよ、こうして猫が集まってくれるだけで、うれしくなるね!



ええ、些細なことでも幸せな気持ちになるわね!




 飼い主たちは微笑んだ。




 たとえ猫に困らされても、それ以上に幸福を与えてくれる――




 たしかな喜びを感じながら。




















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登場人物紹介

紅 

ねこねこファイアー組の元ボス猫。

亡き友人であり部下でもあったオス猫に、妻のイザベラとその子どもたちを託され、結婚することになった。

夫婦仲は良好で近々子ども産まれる予定だが、生活は苦しく、落ち着ける居場所を求めている。

ワケあって住処を離れることとなったので、家族と共に町へ向かうが……。


イザベラ 

紅の妻。メデアとイソルダの母猫。

メデアとイソルダは、亡き夫とのあいだにできた子ども。亡き夫はねこねこファイアー組の幹部のひとりだったが、ニャニャ丸組との抗争により深手を負い、他界した。

知性的な猫であり、ドアノブに手を伸ばして開けることもできる。

メデア 

紅夫婦の娘。

生まれたての頃は甘えん坊だった。弟に冷めたツッコミを入れることが多いが、逆にからかわれることも。

紅が父猫になるまではボスとして遠巻きに眺めるだけだったので、なかなか同居になじめなかったが、共に行動することで次第に心をひらいてゆく。

イソルダ 

紅夫婦の息子。

幼いころから体つきが丸く、運動嫌いが拍車をかけ、筋肉量の少ない体形はぷよんとしている。

スコティッシュフォールドのミックスだった父猫の影響を受け、片方だけ折れ耳。

口癖に「ニャウ」を多用する。調子に乗って姉のメデアをからかい、反撃を浴びることもしばしば。

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