番外 ある飼い主たちの日常③ 猫になつかれているかチェック!

文字数 1,970文字





 (くれない)とそのファミリーが『マジカル・ニャワンダ』に来て、2か月近くが過ぎようとしていた。



神猫様(かみねこさま)、そろそろナデナデくらいならさせてくれる気がするんだけど



いいね! 

ぜひナデナデしたいよ!


でも僕たちって、そんなになつかれてないよね?



そうねぇ。

なつき度診断でいうと、まだまだかしら



なつき度診断かぁ。

とりあえず、会っていきなり威嚇はされないよ



それはなつき度というか、最低限嫌われていない度を測るための基準よね



あ、そっか



なつかれているかどうかは、たとえば……


落ち着いた表情で、喉をゴロゴロ鳴らしてくれるとか









おなかを出して、見せてくれるとか








手を出すと、ペロペロ舐めてくれるとか









……どれもないね



……先が見えないわね



けど、ぼやいていてもしょうがないから、とりあえずナデナデトライしてみましょうよ



うん、そうだね!




 オーハラとトラヒコは2階へ上がっていき、猫部屋のドアをゆっくりと開けた。



神猫様~?



ご機嫌いかがが~?



なんだ? 

食事ならさっき昼食をとったばかりだぞ


いま子猫たちが寝ているのだから、静かにしてくれ



ちょっとおさわりを



ム?



ダメよ、あなた


警戒心のある猫に近づくときは、ゆっくり静かに距離を詰めていかないと



ああ、そうだったね



(のう)をイメージしながら、近づいていって



うん、わかった


って、能がよくわからないんだけど……



あっ、そんなこと言ってる間に、神猫様が――!



あれは――っ!?



あのポーズは、猫が最も警戒しているというおすわり姿勢――

『スフィンクス座り』!








スフィンクス座りは猫の長いおててが堪能できるすばらしいポーズだけど……


両手が前に出ているってことは、いつでも猫パンチで応戦できるってことなのよね








じゃあ、ナデナデは?



いまのままだと、無傷で触れるのは難しいかも……



残念だなぁ



話しかけてリラックスしてもらえば、どうにかなるかもしれないけどねぇ



それなら任せてよ!



何か手立てはあるの?



猫に関する動画を観て、猫の鳴き方を練習したんだ



そうなのね。猫の鳴き声なら気がまぎれるかしら。

じゃあ、やってみせて



トラヒコ、怒った猫モノマネいっきまーす!



ウゥゥゥゥゥウゥウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥウウゥゥゥ~!




――!?



――!?



――!?


――!?


――!?


――!?




ちょっ――!?

みんな本気で驚いちゃってるじゃない!



あはは、僕もビックリだなぁ



笑ってる場合じゃないって



こらっ! 

子どもたちを起こすな!



ごめんねぇ……!



またしても警戒されちゃった……



っもう、怒った猫の声マネはダメよ!

猫が驚いちゃって、よくないわ




 オーハラとトラヒコはしょんぼり顔を伏せる。



 イザベラはこわばった顔を紅に向け、懇願するように訴えかけた。



ねぇ、あなた。

なんだか気が張って、背中が痛くなってきちゃったわ……



大丈夫か? 

少し揉めばよくなるかもしれないぞ




 紅はイザベラのそばへ寄り、両手の肉球を交互に当てる。



 ゆっくりとしたリズミカルな動きだ。



 相手を想う気持ちが伝わってくるような、優しさを感じさせる手つきだった。



神猫様は奥方様にもフミフミしてあげるのね



フミフミするのは、愛されてる証拠だよ!



いいわねぇ



僕たちも、あのコたちとあんなふうに触れ合えたらなぁ……



なんかじっと見られているが、アイツらはなぜおれに構ってくるのだろう?



あの人たちも、こうしてあなたと触れ合いたいだけなのよ



そうだったのか。

まったく世話の焼けるヤツらだな




 ほどなくすると紅はマッサージする手を止め、床にゴロンと横になった。



 手足をひらき、大の字になる。



 柔らかな毛に覆われた腹部が(あら)わになると、オーハラとトラヒコの顔にパッと花が咲いたような笑みが浮かんだ。



あなた、見て!

神猫様がわたしたちにおなかをひらいて見せてくれてるわ!



しかもあれは、くつろぎスタイルの中でも究極といわれる、『ヘソ天』じゃないか!




 ヘソ天とは、ヘソを天井に向けて仰向けになる状態のことをいう。



 急所のおなかを出すことは相手を信頼している証であり、猫のなつき度を示す基準にもなる。



イザベラから聞いたぞ。

おまえたちは、おれに触りたいそうだな


子どもたちを起こした罰としてナデナデはおあずけだが、特別に腹なら見せてやる


だが、これはあくまで観賞用(・・・)だ。

くれぐれも触るんじゃないぞ



神猫様……!

おさわりコミュニケーションはまだ無理そうだけど、ヘソ天してくれるなんて……!


ここに来てよかった。

おかげで元気が湧いてきたわ!



うんうん、いい眺めだね!



いまはこのコたちと深く仲良くなれてるわけじゃないけれど、こうして徐々に距離が縮まってるって思える瞬間がうれしいわね!



いつか、もっとなついてくれたらいいね!



ウフフ、そうね!

その日を快く迎えるためにも、日々のお世話を抜かりなくこなさなくちゃ♪





 二人は満足して猫部屋を出ると、そっとドアを閉めた。






















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登場人物紹介

紅 

ねこねこファイアー組の元ボス猫。

亡き友人であり部下でもあったオス猫に、妻のイザベラとその子どもたちを託され、結婚することになった。

夫婦仲は良好で近々子ども産まれる予定だが、生活は苦しく、落ち着ける居場所を求めている。

ワケあって住処を離れることとなったので、家族と共に町へ向かうが……。


イザベラ 

紅の妻。メデアとイソルダの母猫。

メデアとイソルダは、亡き夫とのあいだにできた子ども。亡き夫はねこねこファイアー組の幹部のひとりだったが、ニャニャ丸組との抗争により深手を負い、他界した。

知性的な猫であり、ドアノブに手を伸ばして開けることもできる。

メデア 

紅夫婦の娘。

生まれたての頃は甘えん坊だった。弟に冷めたツッコミを入れることが多いが、逆にからかわれることも。

紅が父猫になるまではボスとして遠巻きに眺めるだけだったので、なかなか同居になじめなかったが、共に行動することで次第に心をひらいてゆく。

イソルダ 

紅夫婦の息子。

幼いころから体つきが丸く、運動嫌いが拍車をかけ、筋肉量の少ない体形はぷよんとしている。

スコティッシュフォールドのミックスだった父猫の影響を受け、片方だけ折れ耳。

口癖に「ニャウ」を多用する。調子に乗って姉のメデアをからかい、反撃を浴びることもしばしば。

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