番外 ある飼い主たちの日常③ 猫になつかれているかチェック!
文字数 1,970文字
紅とそのファミリーが『マジカル・ニャワンダ』に来て、2か月近くが過ぎようとしていた。
神猫様、そろそろナデナデくらいならさせてくれる気がするんだけど
なつき度診断かぁ。
とりあえず、会っていきなり威嚇はされないよ
それはなつき度というか、最低限嫌われていない度を測るための基準よね
けど、ぼやいていてもしょうがないから、とりあえずナデナデトライしてみましょうよ
オーハラとトラヒコは2階へ上がっていき、猫部屋のドアをゆっくりと開けた。
警戒心のある猫に近づくときは、ゆっくり静かに距離を詰めていかないと
あのポーズは、猫が最も警戒しているというおすわり姿勢――
『スフィンクス座り』!
スフィンクス座りは猫の長いおててが堪能できるすばらしいポーズだけど……
両手が前に出ているってことは、いつでも猫パンチで応戦できるってことなのよね
話しかけてリラックスしてもらえば、どうにかなるかもしれないけどねぇ
そうなのね。猫の鳴き声なら気がまぎれるかしら。
じゃあ、やってみせて
ウゥゥゥゥゥウゥウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥウウゥゥゥ~!
ちょっ――!?
みんな本気で驚いちゃってるじゃない!
っもう、怒った猫の声マネはダメよ!
猫が驚いちゃって、よくないわ
オーハラとトラヒコはしょんぼり顔を伏せる。
イザベラはこわばった顔を紅に向け、懇願するように訴えかけた。
ねぇ、あなた。
なんだか気が張って、背中が痛くなってきちゃったわ……
紅はイザベラのそばへ寄り、両手の肉球を交互に当てる。
ゆっくりとしたリズミカルな動きだ。
相手を想う気持ちが伝わってくるような、優しさを感じさせる手つきだった。
僕たちも、あのコたちとあんなふうに触れ合えたらなぁ……
なんかじっと見られているが、アイツらはなぜおれに構ってくるのだろう?
あの人たちも、こうしてあなたと触れ合いたいだけなのよ
ほどなくすると紅はマッサージする手を止め、床にゴロンと横になった。
手足をひらき、大の字になる。
柔らかな毛に覆われた腹部が露わになると、オーハラとトラヒコの顔にパッと花が咲いたような笑みが浮かんだ。
あなた、見て!
神猫様がわたしたちにおなかをひらいて見せてくれてるわ!
しかもあれは、くつろぎスタイルの中でも究極といわれる、『ヘソ天』じゃないか!
ヘソ天とは、ヘソを天井に向けて仰向けになる状態のことをいう。
急所のおなかを出すことは相手を信頼している証であり、猫のなつき度を示す基準にもなる。
イザベラから聞いたぞ。
おまえたちは、おれに触りたいそうだな
子どもたちを起こした罰としてナデナデはおあずけだが、特別に腹なら見せてやる
だが、これはあくまで観賞用だ。
くれぐれも触るんじゃないぞ
神猫様……!
おさわりコミュニケーションはまだ無理そうだけど、ヘソ天してくれるなんて……!
いまはこのコたちと深く仲良くなれてるわけじゃないけれど、こうして徐々に距離が縮まってるって思える瞬間がうれしいわね!
ウフフ、そうね!
その日を快く迎えるためにも、日々のお世話を抜かりなくこなさなくちゃ♪
二人は満足して猫部屋を出ると、そっとドアを閉めた。
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