第41話 放っておけない気持ち
文字数 2,153文字
部屋を出ていった大地を目で追いながらファーマがつぶやく。
大地が走り去っていったときの泣き顔が思い起こされる。
だがそれは、あのコのためを思ってのこと。
嘆いてばかりでは、幸せにはなれないのだ。
とはいえ、大地のかかえている悲しみを思うと、このまま放っておくのは忍びない……。
解決しない思いをかかえたまま、日は暮れて夜になった。
すでに室内には、おれたち家族以外に誰もいない。
そこへオーハラとトラヒコがやって来た。
暗い部屋にライトが灯されると、視界はたちまち明るくなる。
それぞれが食事を載せたトレイを床に置き、ケージのそばに腰を下ろしたときだった。
先にオーハラが木の柱に刻まれた犯行に気づいて、苦笑いを浮かべる。
トラヒコは器の中のキャットフードをひと粒つまみ上げると、それをケージの外側からおれの鼻先へ近づけた。
食をそそる、いい香りがする……。
熱心にニオイを嗅ぐおれを見てふたりはうれしそうに微笑んだが、何か困り事があるかのように話をはじめた。
溜息まじりに言って、オーハラは柱のそばに散らばる木くずを手でかき集めた。
トラヒコは手にしたキャットフードの粒を器に戻すと、ケージに手をかける。
ケージは猫ひとりにつき1つと分けられたばかりだ。
トラヒコが触れているケージの中には、おれがいる。
トラヒコは謎の鼻歌を口ずさみながら、鍵をスライドさせて外そうとしているところだが……
言った矢先にトラヒコが扉をひらいた。
密室のケージ内に、それまでになかった出入り口がつくりだされる。
瞬間、おれはそのわずかなスペースへ突進した。
旋風にもまさる猛スピードでケージから跳び出し、全力で床を蹴る。
オーハラが叫ぶが、すでにおれの足は部屋から廊下へと移っている。
その細長い通路を脇目も振らずにひた走り、戸の開いている部屋に跳び込んだ。
室内からは大地の気配がする。
おそらくここがアミの言っていた和室だろう。
壁に沿って並ぶ戸の一部には、猫が通るにうってつけの隙間があった。
……返ってきたのは、そっけない言葉だった。
大地の声は、押入れと呼ばれる収納スペースよりも、さらに上のほうから聞こえてきた。
幸い、天袋の戸は半分以上ひらいている。
意識を集中させ、無駄なものには目もくれず目標を見定めれば、跳べないことはない。
おれは全身の気力を奮い起こす。
次の瞬間、体の筋肉を躍動させて、高々と宙へ舞い上がった。
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