第34話 最後の紹介
文字数 2,582文字
トラヒコに一撃見舞うと、彼を擁護する猫たちから非難の声が飛んできた。
ファーマはトラヒコのほうへ顔を振り動かす。
ふたりはここぞとばかりにトラヒコの会話に応じて、「ニャン」と鳴いた。
彼女たちの〝ニャン鳴き〟には、同じ猫なら誰もがわかるメッセージが込められている。
人間に理解するなど不可能なはずだ。
それなのに――
トラヒコの顔がみるみる笑顔に変わっていた。
まるで彼女たちの言葉の意図を汲んだかのように、ふたりのほうへ両手を伸ばす。
これが驚かずにいられるか。
トラヒコは彼女たちの顔を手のひらで包み、愛おしげに撫でた。
トラヒコに頭や背中を撫でてもらって、ふたりは気持ちよさそうだ。
ほどなくして、いくつかの壁を隔てたところから、キャンキャンと犬の鳴き声が伝わってきた。
トラヒコがさっそく行動に移ると、数分後には部屋に犬を連れて戻ってきた。
白くて小柄な犬だった。
メスとオス、2匹いる。
興奮で背筋の毛がやや立ち上がっている。
なにせこれほど長寿の者達と向かい合うのは、生まれて初めての経験だ。
ふたりはまず子どもたちに微笑みかける。
それから丸い目をおれに向け、ケージ越しにしげしげと眺めてきた。
ファーマは毛量豊かなシッポを軽く振りつつ彼らのもとへ近寄ると、鼻を近づけて挨拶を交わした。
それを目にして、トラヒコが満ち足りたように微笑む。
動物たちがほんの少しコミュニケーションを取るだけで、飼い主も当事者も幸せそうだ。
ヒカリ爺とアカリ婆は、綿雲みたいに柔らかそうな顔に微笑みを浮かべた。
この場にいる犬猫たちは、みんなそうやって自然と笑顔になれる。
人前だろうと、見知らぬ猫の前だろうと、穏やかさの見本のような表情をいともたやすく浮かべることができるようだ。
〝所詮は別世界の者達だ〟
そう心の中で反発しつつも、やさしい風にそっと背を押されるように、興味を惹かれるのはなぜだろう?
いつかおれにも、こんなふうに微笑むことのできる日が来るのだろうか……?
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