第60話 家族のんびりぬくぬくタイム

文字数 2,090文字





 ぼんやり(かす)んだ空。



 太陽はいまにも消えそうで、なんとなく心もとない。



 けれど窓辺に差し込むかすかな光の熱に頼らずとも、充分な暖かさが感じられる。



スヤスヤァ~



スヤスヤァ~




 みんなで団子になってのぬくぬくタイム。



 昨日の夜に言った、

「昼間ゆっくり寝よう」という約束どおり、家族密着しながらの微睡(まどろ)みだった。



……


……




 パチリと目を開け、軽く両腕を伸ばす。



ン~、いい心地だ~♪


やはりみんなで身を寄せ合って寝るのは最高だな!

溜まったストレスも、癒しの中にじわりと溶けてゆくようだ



あなた、目が覚めたのね



イザベラ、起きていたのか



あなたより少しだけ早くね。

わたしは昨夜、みつきと一緒に眠ったから充分寝足りてるの


早く目覚めたおかげで、あなたや子どもたちの寝姿をたっぷり見させてもらったわ



そうだったのか。

寝姿を見られるのは少し恥ずかしい気もするが



あなたの寝顔はキレイだし、寝相もいいから問題ないわ


あっ、子どもたちも目を覚ましたみたいよ



ふわぁぁぁ~


ふわぁぁぁ~




 メデアとイソルダは、目を覚ますとあくびをした。



 それから寝ころんだままボーっとした顔を宙に向ける。



……


……




 そしてまた眠そうに、大きな口を開ける。



ふわぁぁぁ~


ふわぁぁぁ~




 大あくびしてから、メデアがちょっと恥ずかしそうに言った。



やだ、あくびが止まんない



起き上がって、しっかり伸びをするといいぞ



うん




 メデアは起きて伸びをするが、イソルダは動こうとしない。



もう少しお父さんとお母さんにくっついていたい、ニャウ




 イソルダは、背中をイザベラに当てていた。



 おれの体には、前足をギュッと絡めてしがみついている。



 ほどよい暖かさにつつまれていると、その居心地の良さから離れたくなくなるのもわからなくはない。



仕方ないな。

顔を舐めてやるから、その眠気まなこをしっかりとひらくんだぞ



ふにゃ~ん。

ゴロゴロ……




 おれが撫でるように触れてやると、イソルダはとてもうれしそうに喉を鳴らした。



イソルダは甘えん坊ねぇ



猫はみんな甘えん坊だって、アカリ爺とヒカリ婆が言ってたよ



ふふ、そうかもしれないわね



でも、犬も甘えん坊だって、ファーマが言ってたよ



ふふ、そうかもね



え~、どっち~?



どっちも正解だろう。

甘えられる存在が身近にいれば、おのずとそういう状態になるものだ



へぇぇ、みんなそうなんだ~。

じゃあ、お母さんもお父さんに甘えるの?



えっ?


まぁ、そうねぇ……



お父さんもお母さんに甘える、ニャウ?



まぁ、そうだな……




 甘えるという言葉には裏も表もないはずだが、なぜか頭に愛の営みが浮かんでしまった。



 反応から察するに、イザベラも同じ状況のようだ。







 話題を変えなくては――と思い、少々焦り気味に視線を動かす。



 たまたま目についたイソルダの腹に着目し、話を振った。



ところでイソルダ。

近頃ますますおなかが膨らんできたんじゃないか?



ふにょ!?



こっちに来てから、ちっとも食べることに困らないものね




 イザベラの言うように、当時では考えられないほど日々飽食だ。



 泥水をすすって飢えをしのいでいた頃が遠い昔に感じられる。



ねぇ、お父さんの好きな食べ物は?



どうした? 急に



今朝ね、イソルダと話してたの。

たまにもらえるニャオ☆チュールがヤバイって


ウニャウ。

あれはおねだり上手になるうまさ、ニャウ


でもお父さんは、あたしたちが食べてるところを遠くから見てるだけだから、何が好きなのかなぁって



うーむ……、

おれはやっぱり魚だろうな


とくにデカイ魚を魚屋から丸ごと1匹盗んで食うのは、最高にうまい



あ~わかるわかる


盗んだ味は格別、ニャウ



魚屋に恨まれるわね



そーゆうお母さんも喜んで食べてたじゃん



イザベラは魚が好きなようだからな



そうなんだ。

じゃあ、ニボシも好物?



それも好きだけど、チーズのほうが好みね



チーズかぁ。

じゃあピザ屋を襲えばいいのかな?



そんな物騒なことは考えなくてもいいわよ。

わたしはキャットフードで十分満足してるんだから



でも、あんまり食べてないじゃん


いつも残してばかり、ニャウ



ふたりの言うとおりだな。

無理にとは言わないが、もう少し食べたほうがいいぞ



そうね……




 さりげなく促してみたが、イザベラは困ったようにうつむいてしまった。



 会話が止まったあたりで、下の階から大きめの鳴き声が響いてきた。



フオォォォォォン!



あら、またみつきの不満鳴きが始まったわ



さみしいのかな


でも昨晩より大声じゃない、ニャウ



きっと狭い所にいて落ち着かないんだろうけど……


ヘタに騒いでまたツートンが部屋に来ても迷惑だから、我慢しているのかもね



ツートンか……




 と、ヤツの名が出たところで――



 タイミングよく、誰かがおれたちのいる猫部屋のドアをこすりはじめる。



あら?



開けてや~




 やって来たのは、ファーマだった。



 イザベラがドアを開けると、ファーマは元気そうな顔をのぞかせる。



聞いたで。

深夜にツートンとモメたらしいやないか



モメたというか、ヤツが一方的に絡んできたというか




 ファーマは部屋へ入っておれたちのほうに寄ってくると、やや慎重な口ぶりで言った。



ちょっとそのことで話があんねん



話……?




 言うまでもなく、いい予感はしなかった。



















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登場人物紹介

紅 

ねこねこファイアー組の元ボス猫。

亡き友人であり部下でもあったオス猫に、妻のイザベラとその子どもたちを託され、結婚することになった。

夫婦仲は良好で近々子ども産まれる予定だが、生活は苦しく、落ち着ける居場所を求めている。

ワケあって住処を離れることとなったので、家族と共に町へ向かうが……。


イザベラ 

紅の妻。メデアとイソルダの母猫。

メデアとイソルダは、亡き夫とのあいだにできた子ども。亡き夫はねこねこファイアー組の幹部のひとりだったが、ニャニャ丸組との抗争により深手を負い、他界した。

知性的な猫であり、ドアノブに手を伸ばして開けることもできる。

メデア 

紅夫婦の娘。

生まれたての頃は甘えん坊だった。弟に冷めたツッコミを入れることが多いが、逆にからかわれることも。

紅が父猫になるまではボスとして遠巻きに眺めるだけだったので、なかなか同居になじめなかったが、共に行動することで次第に心をひらいてゆく。

イソルダ 

紅夫婦の息子。

幼いころから体つきが丸く、運動嫌いが拍車をかけ、筋肉量の少ない体形はぷよんとしている。

スコティッシュフォールドのミックスだった父猫の影響を受け、片方だけ折れ耳。

口癖に「ニャウ」を多用する。調子に乗って姉のメデアをからかい、反撃を浴びることもしばしば。

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