第116話 候補者選び
文字数 3,673文字
その日の夜。
おれは家族のいる猫部屋を離れ、リビングに張り込んでいた。
里親希望者についての情報を得るためだ。
ファーマとアカリ婆とヒカリ爺は、おれにつき合って、オーハラたちの様子をそれとなく探ってくれている。
ファーマが座卓のほうへ顔をクイッと動かす。
それまでテレビを視聴していたオーハラ、トラヒコ、
つぶやきながら、オーハラは卓上に置いてある黒いモノを手に取る。
おれはオーハラたちのやり取りに耳を傾けた。
みんなはタブレットの画面を見ながら、やや楽しげに声を弾ませる。
オーハラは隣にいる桃寧へタブレットを差し出す。
桃寧はタブレットを受け取ると、二つの瞳を画面に定め――
やや間を置いてから、ちょっと不思議そうにまばたきを繰り返す。
こんにちは!
ペンネーム、ハナマル池です***(←花のつもり(笑))
猫ちゃんかわいいですね!
猫、好きです!
大大大ちゅき♡です!
ってか、くださいっ!!!!(強めに強調。)
はじめまして。通りすがりの者です。
HPに掲載してある姉弟猫の写真を拝見しました。
名前の欄に、姉猫様、弟猫様と記載されていましたが、正直なところネーミングセンスが謎だと思いました。
そもそも猫の名前に、「様」などと付けること自体おかしいです。
変だと感じないのですか?
やはりあなた方は、猫の信者なのですね。
だから異常だと思わないのでしょう?
信者という存在にロクな人間はいません。
私はそのような方々から猫を受け取る気にはなれません。
はっきり言って、猫のボランティアなんて世の中に必要ないと思います。
捕獲された猫たちがかわいそうです。
いますぐ猫たちを解放してください
P.S. きちんと返信してください。返事が来るまで、このメッセージを送信し続けるつもりです
ガクリとうなだれるオーハラたち。
桃寧はトラヒコにタブレットを渡した。
当方、36歳になる会社員です。
ジロリ町に隣接する、イチベツ市に在住しております。
家は分譲マンションを購入し、妻一人、子二人、そして一匹の犬と暮らしております。
保護猫を迎えたいと考えているのですが、HPに記載してありました譲渡条件につきまして、承諾できかねる点がいくつかございますのでご確認ください。
①身分証明書の提示
そちらで個人情報の保護が徹底されているかを確認できるまで、身分証明書の提示は拒否致します。
②ペット可物件であること
当方の住むマンションは、ペット可物件ではございません。
ですが、まわりの家の方々も動物を飼っているので、問題はないかと思われます。
③猫の飼育に関して家族全員の同意を得ていること
妻と息子に猫を飼いたいと打ち明けましたが、世話は嫌だといって同意が得られません。
これにつきましてはボランティアさんのほうで説得に当たってはいただけないでしょうか。
④完全室内飼いをする
完全室内飼いにつきましては、同意できかねます。なぜなら、先住犬と共に外へ連れ出し、撮影などを行いたいと計画しているからです。
ある程度外へ出してもいいという条件なら承諾できますが、いかがでしょうか?
⑤脱走防止対策の徹底
脱走防止対策などは、インテリアに影響するので承諾できかねます。
⑥不妊・去勢手術の実施
不妊・去勢手術に関しては、最初に猫に子どもを産ませてから実施する予定ですので、ただちにしろという命令には同意はできません。
以上をご考慮いただいた上、問題がなければ、是非とも猫を譲っていただきたいと思っております
≪二匹の姉弟猫を希望します≫
はじめまして。
ジロリ町に住んでいます。
家族構成は、夫と、中学生になる子どもの三人家族です。
猫を飼育できる一軒家に住んでおります。
現在飼育している動物はおりません。
HPに掲載されていた二匹の姉弟猫をぜひうちで引き取らせていただけたらと思い、ご連絡致しました。
とてもかわいらしい猫さんですね。
姉弟一緒に迎えられたら、きっと楽しいだろうと思いました。
わが家では以前から猫を迎え入れたいと考えており、夫婦で家の内装を猫向きに改めるなど取り組んでまいりました。
キャットウォークや脱走防止柵などの設置という具合に、できる限りのことはしたつもりです。
室内の模様を一部だけですが、ブログに掲載しておりますので、よろしければご覧ください
タブレットに表示された画面を見た直後、動揺しその場に固まるオーハラたち。
佐多梨です。
先日保護猫を引き取りたいと申し出た件についてですが、夫とは急遽離婚することになり、家を離れることとなりました。
よって、保護猫を引き取る話は見送らせていただきたく思います。
お騒がせして、申し訳ありませんでした。
タブレットを見つめる人々を中心に、重い沈黙が降ってくる。
おれはイラ立ちをぶつけるように、シッポをブンッと振って床を叩いた。
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