第21話 職質を受ける猫オタ
文字数 2,608文字
自転車を漕ぐ猫オタ。
荒い息をつきながらも、その顔は満たされたように機嫌よさげだ。
メデアとイソルダは、猫オタが背負っているカバンの中にいる。
カバンの留め具は外し、内側から顔だけのぞかせている状態だ。
いくつもの建物が上り坂の片側に並んでいる。
その家のどこからか、動物の密集するニオイを感じなくもない。
だがそれほど濃厚な香りでもないので、出どころは謎のままだ。
猫オタが坂道をのぼりはじめて間もなくのことだった。
坂を反対側から下りてくる人間がいる。
青っぽい服を着た人間だ。
青い服の男は、おれたちのほうへ近づいて話しかけてきた。
なんのことだかわからんが、突然声をかけてきた人間のせいで足止めを食らうことになった。
会話から状況を察するのは難しい。
だが異様な事態に直面していることだけは、漂う緊張感から伝わってくる。
猫オタはいつものカメラ付き道具をポケットから取り出すと、光沢のある画面を押した。
トゥルルルルルと人工的な音が流れる。
それが何度も繰り返されると、
再び画面に手をやって音を止め、猫オタは道具をポケットにしまい込んだ。
その様子を厳しい目つきで観察しながら、相手はトゲのある口調で言う。
おれの前足を指差しながら猫オタが主張する。
やるせない感情を散らすように、猫オタは大声で不平を鳴らす。
おれは後ろに顔をやって、子どもたちへ問いかけた。
たちまち生命の危機を意識したメデアとイソルダは、超警戒モードに入ってしまった。
全身の毛がハリネズミのように膨れあがる。
メデアとイソルダは、猫オタのカバンから跳び出した。
同じ方向にジャンプし、地面に着地する。
メデアとイソルダは、極力人間たちから離れようと道の端のブロック塀に寄っていく。
猫オタが何を言っているのか、おれにはわからない。
だが、ふと彼の猫を想う気持ちがスーッと胸に入り込んで、心が温まった気がした。
そんな和やかさに包まれたのも
坂道の上のあたりから、別の人間の足音が近づいてきた。
言いながら足早にこちらへ向かってくる。
体つきは大きいが、声は人間の女性そのものだった。声質からいって、中高年の婦人だろう。
相手が近づくにつれて、かすかにニオイが漂ってくる。
イザベラを連れていったヤツに違いない――!
おれは鋭い眼差しで相手を見つめる。
自然と内側から現れ出る爪を抑えることができなかった。
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