第93話 ぎこちないコミュニケーション
文字数 2,256文字
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猫オタが泣きやむと、オーハラは視線を
猫オタは姿勢を低くすると、押し入れの中のイザベラを見上げつつ、おれのほうへにじり寄ってきた。
おれは息を凝らしてこちらを見つめている猫オタに釘を刺す。
猫オタは頷いて立ち上がると、人々のほうへ向き直って、もっともらしく報告しはじめた。
桃寧は、自身の記憶を振り返るように遠くを見つめた。
そこに何が浮かんでいるのかわからないが、名前のような短い言葉が次々に挙げられる。
ほどなくして、ヒスイ以外の子猫たちに名がつけられた。
桃寧の話によると、みんな不慮の事故に遭遇し、命を落とした猫たちだという。
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戸口に目をやるが、ふたりはどこへ行ったのか、姿は見当たらず気配も近くに感じない。
大きめの声で鳴くと、それを見た桃寧が勘違いしてうろたえだした。
退出しようと、オーハラと桃寧は歩き出す。
が、ふと何かに気づいたように桃寧は足を止め、後ろを振り返った。
彼女はまっすぐな瞳で猫オタを見つめている。
みんなが楽しげに微笑み合う。
ほどなくして、玄関のほうからなじみのある声が響いてきた。
去っていく人々を目端に留めつつ、おれは毛づくろいに専念する。
やがてメデアとイソルダが部屋に戻ってきた。
猫にとって、ニオイ調査は日課の一つでもある。
この家に来たばかりで縄張りを主張するつもりはないが、猫である以上、異常はないか日々の点検を怠るわけにいかない。
といっても、野良猫のウロつく野外と違って家の中が外敵に荒らされることはないから、過敏に神経をとがらす必要はないのだが……
おれはメデアとイソルダに子猫たちの護衛を頼んで、みつきのもとへ向かった。
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