第146話 アンチでも感心する
文字数 2,997文字
![](https://img-novel.daysneo.com/talk/295e4be84225e0be2afbb49811121e13.png)
日が暮れ始めた頃――
動物病院に行っていたオーハラと猫オタが帰ってきた。
駐車場から入ってくる物音を聞く限り、アンチクンもいるようだ。
外見はツートンのように見えたが、表情が違う気がする。
また異なるキャラが出現したのだろうか?
オーハラと猫オタが玄関に入ってくると、出迎え組のファーマ、アカリ婆、ヒカリ爺が一斉に声を響かせた。
ファーマ達は、コシコシと脱出防止柵を手でこすったりシッポを振ったりしながら、食事をねだりはじめる。
白黒猫は得意げな顔をして柵のほうへ寄っていく。
ということは、それなりに登場回数は多そうだ。
おれは普段2階で食事をしているから、あまりその場面に遭遇しないだけなのかもしれない。
マメ大福は柵に顔を近づけると、甘ったるい声で鳴いてみせる。
本心でそう思っているのかは疑問だが……
マメ大福は言い終えると、飼い主に触れられたくて仕方がない――とでもいうように、頭や体を柵にこすりつけた。
そのスリスリ行為を何度か繰り返すと、
熱っぽい瞳で、オーハラをじっと見つめる。
マメ大福のその仕草に、人間たちは魔法にかけられたように上機嫌になる。
オーハラはマメ大福のそばに寄ると、柵のあいだから
マメ大福は二足立ちになって、背筋をしなやかに伸ばす。
オーハラが柵の施錠を外そうとすると、その顔の中心部に鼻先をちょんと当てる。
オーハラがキッチンへ向かうと――
マメ大福は体をくるりと反転させ、掌返しでほくそ笑む。
まるで悪魔がのりうつったような、悪しき微笑み……。
見る者を圧倒するようなドヤ顔を決めて、ツートンことマメ大福は、オーハラの後についてリビングへ入っていった。
不自然に喉を震わせるアンチクン。
よほどの衝撃を受けたのだろう。
振り向いて見ると、キャリーバッグの中でフレーメン反応したように固まっている。
ストレスを呑み込むようにアンチクンは言う。
語尾が舌打ちしたようになるのは、彼独特の話し方だ。
おれも影響されて、同じように息を呑む。
急に胸が切ない気持ちにつつまれる。
いつの間にか、この子どものような猫相手に情が移ってしまったようだ。
![](https://img-novel.daysneo.com/talk/5ac939d02d79cc73ae45fd17c19e8472.png)
アンチクンは、まっすぐな瞳をおれに向けてきた。
せめて少しでも、彼の中にある人間嫌いの感情が軽くなればいい――
そう願いを込めて、おれは話を切り出した。
(ログインが必要です)