第84話 一生の思い出となる出来事
文字数 2,254文字
ダダダダダッ!
ダダダダダダダダダッ!
いくつもの肉球がリズミカルに床を跳ねる。
先頭はファーマ。
その後ろに、おれ、メデア、イソルダ、みつき、イザベラと続く。
ファーマの運動不足解消のため、急遽走り込みを始めることにした。
みんなで階段を駆け上がって2階の各部屋を走り回ると、次は1階へ下りて廊下をひたすらダッシュする。
廊下を横切る際におれたちを見て、オーハラは満足げだ。
言葉はわからずとも、ファーマが運動していることに喜びを得ているのは伝わってくる。
先頭のファーマの足がついに止まってしまった。
彼女は走るのをやめると、即座に床の上にうずくまる。
やむを得ずファーマをその場に置き、おれたちは家じゅうを駆け回った。
最終的にリビングに行きつき、休憩に入る。
おれたちはこのあと食事を
その後も充足した時間を過ごし、やがて夜になった。
夜も
異様な気配を感じ、ハッと目を開ける。
近頃みつきの夜鳴きは静まっているから、切羽詰まった猫の鳴き声が聞こえること自体が異常なのだ。
苦しげな声の主は、イザベラだった。
そばに横たわるイザベラの状態をチェックする。
呼吸が早く、やや体温が低い。
たしかにイザベラのおなかは、はち切れそうなほどに膨らんでいた。
この中にいったいどのくらいの子猫が入っているのだろう?
日々想像をめぐらすだけで、豊かな気持ちになったものだ。
それが、ついに――
ついに出てくるのか――……!
イザベラはおれに心配をかけまいとするように優しく微笑んでくれる。
励まさなくてはならないのは、おれのほうだというのに……。
イザベラはおれの前足にそっと手を触れた。
おれは身を屈め、彼女の頬に口を当てる。
イザベラは起き上がって、部屋の隅に置かれたダンボール箱のほうへ歩み出す。
しばらく見つめ合って、彼女のまなざしに愛を感じると、おれは箱のほうへと移動した。
(ログインが必要です)