第45話 伝わる気持ち、伝わらない気持ち
文字数 1,901文字
アミは目の前にいる里親希望者を見つめたまま、置物のようにじっと動かずにいる。
彼女は目で何かを主張しているのだろうか。
それとも相手をじっくりと見極めようとしているのだろうか。
外にいるおれたちは、こんな具合に賑やかだ。
一方部屋の内にいる者達は、先行き不透明の空気に巻かれて、ややピリピリした感は否めない。
沈黙を経て、オーハラが切りだした。
トラヒコが話しているあいだに、オーハラは卓の横に置かれた収納ボックスから、小さなボールを取り出した。
好奇心に誘われて、アミはシッポを揺らす。
オーハラはテーブルの向かいにいる中年女性にボールを渡した。
中年彼女はおずおずしながらボールを投げた。
丸い球が宙を移動しはじめた途端、アミはダダダッと駆け出していく。
いい瞬発力だ。
ボールが床に転がると、またたく間に口にくわえて方向転換した。
アミは足早に元の場所へ戻っていく。
そして誰に指示されたわけでもないのに、ボールを投げた女性の手のひらにポトリと落とした。
優れたその行動に、ひたすら感心する里親希望者たち。
アミは浮かれもせずその様子を冷静に観察し、やがて言った。
自分に言い聞かせるようにつぶやきながらアミは前へ進み出ると、里親の手に鼻先を近づけた。
少し慎重に相手のニオイを嗅ぐ。
アミは里親の指に顔を寄せ、そっと頬ずりをした。
婦人は感極まったように声を詰まらせる。
アミは飼い主となる人へ、優しい笑顔を向けて言った。
アミは呆れたように溜息をつく。
それから大地のほうに向き直って、教え
葛藤するように、悩ましげな表情で唸りだす大地だったが……
突如キャットタワーを蹴ると、着地と同時にリビングを走り去ってしまった。
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