第127話 運命を見極める

文字数 2,128文字





 オーハラとトラヒコは、里親候補者の出した〝写真〟に目を見張っている。



 声をあげて驚いていたので、よほどオカシなものでも写っているのかと気になったが……




あら、奇遇だわ~!

この写真の猫さんがしてる首輪、わたしたちも買おうと思っていたんですよ



首輪、ですか?



ええ、アカリとヒカリへのプレゼントにいいかなって目をつけてたんです



そうでしたか。

キレイな首輪ですけれど、うちでは猫があちこちに引っかけて壊すので、両親に呆れられているのですよ



ふふふ、そうですか~。

元気がいいんですね



それにしてもかわいらしい三毛猫さんだなぁ。

ふっくらしているところなんて、一段と愛らしい



うちの両親が聞いたら、さぞ喜ぶでしょうね



なぁ、なぜオーハラたちはあのように盛り上がっているのだ?



さぁ?

写真の猫を見て喜んでいるみたいだけれど



それより、わしらに首輪をプレゼントしようとしていた話のほうが気になるぞぃ



うむうむ、幾つになってもプレゼントはうれしいものじゃ



毎日プレゼントもろうてもええくらいや



おい、だんだん話がズレてきてるぞ。

写真の猫とは、何なのだ?



写真の猫は三毛猫で、里親候補者の親が飼ってるらしいで



ふぅん。

あたしと同じ三毛猫かぁ


どんな猫、ニャウ?



謎、ニャウ



あ、マネされたっ



にゃっは!




 ファーマは得意げな顔でシッポを揺らす。



 訪問者のあるときはリビングには入らないと言っていたが、彼女はこの大部屋を横断してキッチンのそばにいる。



 キッチン側にいるのは、おそらく小腹がすいたからだろう。



念のため、写真をチェックしておくか




 おれは座卓に歩み寄って前足をのせると、仁王立ちになった。



 背中をピンと伸ばし、オーハラたちがのぞき込んでいる画面を見下ろす。



どう? お父さん


なんかわかった、ニャウ?










……


猫らしき生き物が映っているのは、なんとなくわかるが……


見たことあるような、ないような……



どっちなん?



おそらく、ない……と思うが自信はないな



知っている猫じゃないのね?



う~む、なんとも言い難いな


もしかすると……、

知っている……かも?



なんやそれ。

めっちゃアヤフヤやんか



だったら、おまえも見てみるがいい。

己の限界を感じずにいられなくなるぞ



んな大げさな~



大げさではない。

写真というものから個体を識別し分析するのは、容易なことではないのだ



まぁ、言いたいことはわからんでもないけど



わたしも見てみることにするわ



あたしも見たーい!


ぼくも!




 みんな一斉に座卓に集まってくる。



 おれが卓の真ん中を陣取ると、メデアとイソルダも同じように天板の上に跳び乗った。



テーブルが猫だらけだ~!



猫好きにはたまらない光景ですね



珍しいから写真撮ろうかな



このモフモフシッポ、つい触りたくなっちゃう



お触りはダメやないけど、適度にしてや~




 ファーマは中年女性から離れてオーハラとトラヒコの背後へまわり込み、二人のあいだから身を乗りだした。



今日に限って、みんなどうしたのかしら



ハハハ、マタタビを撒いたときみたいだね



猫だけじゃなく、わしらもいるぞぃ



猫にママタビというが、犬はマタタビに反応しないのじゃ




 言いながらアカリ婆とヒカリ爺は、オーハラとトラヒコの膝の上に乗ると、座卓に視線を落とした。



 人々が驚きの声を洩らす中、おれはみんなと共に写真を注視し、これでもかというくらい集中力を発揮して凝視する。




 が……

 







てか、ナニコレ?



犬ではないな



当たり前や!

猫ゆうてるやん



写真は映像と違ってわかりにくいのぅ



写真じゃ相手が動かないし……退屈、ニャウ



たしかに紅さんの言うとーりやわ。

見てもサッパリわからん



せめて実物のニオイを嗅げば、もう少し情報が得られるかもしれないけれど……



どのみち相手のことを憶えてないんじゃ、どーしようもあらへんよ



無念だが、こればかりはどうすることもできんな


相手の猫について何もわからんのに否定するのは、道理に合わんだろうし




 おれが写真から目を離すと、みんなも顔を上げ、メデアとイソルダに注目する。



なんにせよ、そなたたち姉弟とその猫が同居するわけではないのじゃろ



だったら、そこまで気にしなくても平気じゃろう



ふむ



こういうときはまわりがとやかく言うよりも、子どもたちの判断に委ねるのが一番だと思うわ




 イザベラの言葉におれはまばたきで同意を示し、子どもたちへ問いかけた。



おまえたちは、どう思う?

この得体の知れない猫が気に入らないのなら、里親の件自体やめていいのだぞ



う~ん……


う~ん……




 メデアとイソルダは困っているようだ。



 こんなことを唐突に聞かれても答えられないだろう、そう思った。




 だが――




 姉のメデアがほんのり笑みを浮かべて、弟より先に意見を口にする。



悪くはなさそうな気がする



本当にそう思うのか?



うん



後悔しないか?



うん



イソルダは?



ぼくもメデアと同意見、ニャウ



なぜそう思うのだ?



わからないけど、なんとなく感じるっていうか……



直感を信じてみるのもいいかもしれないわね。

きっと運命ってことなんだわ



運命か……




 よい里親とも巡り会えた。



 写真の三毛猫についてはなんとも言えないが、メデアとイソルダが悪くなさそうと感じたのだから、信じて見送ってもいいのかもしれない。



わかった。

おまえたちがそう感じるのなら任せよう





 こうして、メデアとイソルダの譲渡が決定した。

























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登場人物紹介

紅 

ねこねこファイアー組の元ボス猫。

亡き友人であり部下でもあったオス猫に、妻のイザベラとその子どもたちを託され、結婚することになった。

夫婦仲は良好で近々子ども産まれる予定だが、生活は苦しく、落ち着ける居場所を求めている。

ワケあって住処を離れることとなったので、家族と共に町へ向かうが……。


イザベラ 

紅の妻。メデアとイソルダの母猫。

メデアとイソルダは、亡き夫とのあいだにできた子ども。亡き夫はねこねこファイアー組の幹部のひとりだったが、ニャニャ丸組との抗争により深手を負い、他界した。

知性的な猫であり、ドアノブに手を伸ばして開けることもできる。

メデア 

紅夫婦の娘。

生まれたての頃は甘えん坊だった。弟に冷めたツッコミを入れることが多いが、逆にからかわれることも。

紅が父猫になるまではボスとして遠巻きに眺めるだけだったので、なかなか同居になじめなかったが、共に行動することで次第に心をひらいてゆく。

イソルダ 

紅夫婦の息子。

幼いころから体つきが丸く、運動嫌いが拍車をかけ、筋肉量の少ない体形はぷよんとしている。

スコティッシュフォールドのミックスだった父猫の影響を受け、片方だけ折れ耳。

口癖に「ニャウ」を多用する。調子に乗って姉のメデアをからかい、反撃を浴びることもしばしば。

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