第5話 家族の絆

文字数 2,565文字



こんにちはー!

猫に関する雑学や、作者の気持ちをお伝えするアイ・キャットでーす!


今回は若干の下ネタ表現があります。

お気に召さない方は、閲覧の際くれぐれもご注意ください





 人間から攻撃されて戻ってきたおれを見て、イザベラは憤慨(ふんがい)した。



ひどい仕打ち! 

あんまりだわっ!



何も悪いことしていないのに


人間って、嫌なヤツ



ごめんなさい、あなた。

こんなところを候補に選んでしまって……



いや、早く気づけただけでもよかった。

期待をかけてから裏切られるよりはずっといい



っざけんな! 猫どもがっ!

勝手にうちに入ってきて、集会ひらいてんじゃねえよっ




 敷地内にいるおれたちを見て、目くじらを立てる中年男。



 水の出なくなったホースを足元に放り出し、ズカズカ足音を立てて接近してくる。



みんな、反対方向へ走れ!



は、はい!


メデア、イソルダ、急いで!



ニャッ……!


疾走、ニャウ!




 イソルダは芝生を蹴って駆けだすが、メデアは突然の出来事に圧倒されてしまったらしい。



 縛りつけられたように、その場に固まってしまう。



とっとと消えろっ




 中年男は立ちすくんだままのメデアのほうに片足を振って、蹴り飛ばそうとしてきた。



 振りの速度は遅いが、いかんせん人間の脚はサイズが大きい。おれたち猫にしてみれば、丸太がぶっ飛んでくるようなものだ。



 おれはメデアの前に立ち、中年男を真っ向から威嚇する。



退()けっ!

娘に危害を加えたら承知しないぞ!



猫ごときが調子に乗りやがって!

テメェの皮()いで、三味線(しゃみせん)にしてやろうかっ!




 そう男がわめいているあいだに、おれの目は相手の隙だらけの体を一巡した。



 攻撃を仕掛けるなら――



 着衣の上よりも、直接肌に与えるのが有効だ!



猫を(あなど)るなっ!




 サッと躍動し、狙いすまして中年男の手首にガブリと噛みつく。



いてえっ!

なにしてくれんだ、バカヤローがっ!




 男はおれを振り放そうと、手をブンブン振りまくる。



その程度でおれを引き離せると思ったら、大間違いだぞ!




 額に汗を(にじ)ませながら、「離せぇ~!」と(うめ)く中年男。



 男はもう片方の手で、おれを叩き落そうとする。



愚か者めっ!

攻撃が遅いっ!




 おれは叩かれる前に口をはなした。



 勢いに身をまかせ、男から遠ざかる。



 流れで体が宙にふっ飛ばされるが、重心を維持したまま軽やかに着地をした。



お、おとうさん……!




 焦りを滲ませてメデアが駆け寄ってきた。



大丈夫か? メデア



うん……


お父さん……無事でよかった。

やられちゃうんじゃないかって、ちょっと心配だった……



心配してくれたのか。おれはおまえが無事で安心したぞ!



あたしも、安心した……


ありがとう。(かば)ってくれて




 メデア……。




 面と向かってお礼を言われるなど、初めてのことだ。



 胸がじんと熱くなる。



おまえが無事ならそれでいい




 娘の顔を見ながら、湧きあがる喜びを噛みしめる。







あなた! 早く……!




 おれの後ろから、イザベラが不安げな声で急き立ててきた。



行こう、メデア



うん!




 庭を駆け、屋敷から離れる。



 その最中、出入り口の門から罵声が響いてくる。



二度と来んな! 

このクソ猫どもがっ!




 道路を走り抜けると、迂回して屋敷の裏側へ回り込んだ。



 そこは一面の草木だった。民家がひしめく場所よりもくつろげそうな場所が広がっている。



ホッ、無事でよかったわ


けど、人間にケンカを売るなんて無茶よ。

危ないことは、もうしないでね



わかっている。だがメデアを守るためだったのだ。

やむを得まい




 おかげでメデアとの絆が深まった。



 あの男には不快な思いをさせられたが、いまは割といい気分だ。 



 改めてひと気のないことを確認すると、木々のあいだに腰を下ろす。



あなた、ケガはしてない?




 イザベラが心配そうにおれの顔をのぞき込んできた。



こんな事態に遭遇してばかりじゃ、ケガが増えてしまうわ



もう充分傷だらけだ。

仮にケガが一つ増えたところでどうってことはないさ



それにしてもすごいね。

お父さんは人間とも戦えるんだ


(たくま)しい、ニャウ!



おまえたちは絶対にマネはしないほうがいいぞ。

人間は、動作は鈍いが力があるからな


身の危険を感じたら、さっさと撤退するのが一番だ




 と言ったにもかかわらず、イソルダはやる気満々だ。



ボクも戦う、ニャウ!




 急に気負いこんで木によじ登ると、イソルダは屋敷の(ひさし)の上に跳び乗った。


 

 何を思ったか、おしりを上げて気張(きば)りはじめる。



ウウ~ン……!



なにをしているのだ?



ほ……報復、ニャウ!



ウンコしようとしてるようにしか見えないけど



ウニャ!

置き土産、ニャウ!



もぉ~~~! 

そんなはしたないことは、やめなさいっ!



フニャ……




 イザベラの鋭い叱咤を受け、イソルダは気張り体勢をお座り状態へと改める。



そんなことをすれば、ますます住人の猫嫌いが加速してしまうでしょ


愚かな行動は、わたしたちだけじゃなく、他の猫が(しいた)げられる要因にもなりかねないのよ



ごもっとも、ニャウ……


だけど、あんなふうに扱われるのは悔しい……



そうだけど……仕方がないわ。

人と関わるなら、ときには忍耐も必要よ



でも、あんなに横暴なのはひどい……!



おれもそう思う




 やはり人を頼るべきではなかったか……。



 良き人間を捜すという目的が途方もないものに思えてくる。


 

ところでイザベラは以前、人間の世話になっていたことがあると言っていたな



もう昔のことよ




 それっきりイザベラは口を(つぐ)んでしまう。



 当時のことを彼女は話したがらない。



 おそらく良い思い出ではないのだろう。




 ほどなくして、小さな森を抜けて道路に出ると――



なっ……!?

またかっ――!




 またしても人間に出くわした。



 しかも今度は数が多い。



あ、猫だ!



しかも四匹も!



あらあら、ホントだわ


こんなにたくさんの野良猫に会うなんて、あのペットショップ以来よね




 道路の向かい側からやって来たのは、小さい人間が二人、大きい人間が一人。



 それに紐でつながれた犬が一匹だった。



またドッグフードを盗まれないように気をつけないと


今日は持ってないから大丈夫だよ


ふふ、そうね




 人間たちは、こちらを敵視した様子もなく近寄ってくる。



……!?




 さきほどの件があるせいか、おれの心にえも言われぬ警戒心が湧きあがっていた。























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登場人物紹介

紅 

ねこねこファイアー組の元ボス猫。

亡き友人であり部下でもあったオス猫に、妻のイザベラとその子どもたちを託され、結婚することになった。

夫婦仲は良好で近々子ども産まれる予定だが、生活は苦しく、落ち着ける居場所を求めている。

ワケあって住処を離れることとなったので、家族と共に町へ向かうが……。


イザベラ 

紅の妻。メデアとイソルダの母猫。

メデアとイソルダは、亡き夫とのあいだにできた子ども。亡き夫はねこねこファイアー組の幹部のひとりだったが、ニャニャ丸組との抗争により深手を負い、他界した。

知性的な猫であり、ドアノブに手を伸ばして開けることもできる。

メデア 

紅夫婦の娘。

生まれたての頃は甘えん坊だった。弟に冷めたツッコミを入れることが多いが、逆にからかわれることも。

紅が父猫になるまではボスとして遠巻きに眺めるだけだったので、なかなか同居になじめなかったが、共に行動することで次第に心をひらいてゆく。

イソルダ 

紅夫婦の息子。

幼いころから体つきが丸く、運動嫌いが拍車をかけ、筋肉量の少ない体形はぷよんとしている。

スコティッシュフォールドのミックスだった父猫の影響を受け、片方だけ折れ耳。

口癖に「ニャウ」を多用する。調子に乗って姉のメデアをからかい、反撃を浴びることもしばしば。

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