第5話 家族の絆
文字数 2,565文字
人間から攻撃されて戻ってきたおれを見て、イザベラは
敷地内にいるおれたちを見て、目くじらを立てる中年男。
水の出なくなったホースを足元に放り出し、ズカズカ足音を立てて接近してくる。
イソルダは芝生を蹴って駆けだすが、メデアは突然の出来事に圧倒されてしまったらしい。
縛りつけられたように、その場に固まってしまう。
中年男は立ちすくんだままのメデアのほうに片足を振って、蹴り飛ばそうとしてきた。
振りの速度は遅いが、いかんせん人間の脚はサイズが大きい。おれたち猫にしてみれば、丸太がぶっ飛んでくるようなものだ。
おれはメデアの前に立ち、中年男を真っ向から威嚇する。
そう男がわめいているあいだに、おれの目は相手の隙だらけの体を一巡した。
攻撃を仕掛けるなら――
着衣の上よりも、直接肌に与えるのが有効だ!
サッと躍動し、狙いすまして中年男の手首にガブリと噛みつく。
男はおれを振り放そうと、手をブンブン振りまくる。
額に汗を
男はもう片方の手で、おれを叩き落そうとする。
おれは叩かれる前に口をはなした。
勢いに身をまかせ、男から遠ざかる。
流れで体が宙にふっ飛ばされるが、重心を維持したまま軽やかに着地をした。
焦りを滲ませてメデアが駆け寄ってきた。
メデア……。
面と向かってお礼を言われるなど、初めてのことだ。
胸がじんと熱くなる。
娘の顔を見ながら、湧きあがる喜びを噛みしめる。
おれの後ろから、イザベラが不安げな声で急き立ててきた。
庭を駆け、屋敷から離れる。
その最中、出入り口の門から罵声が響いてくる。
道路を走り抜けると、迂回して屋敷の裏側へ回り込んだ。
そこは一面の草木だった。民家がひしめく場所よりもくつろげそうな場所が広がっている。
おかげでメデアとの絆が深まった。
あの男には不快な思いをさせられたが、いまは割といい気分だ。
改めてひと気のないことを確認すると、木々のあいだに腰を下ろす。
イザベラが心配そうにおれの顔をのぞき込んできた。
と言ったにもかかわらず、イソルダはやる気満々だ。
急に気負いこんで木によじ登ると、イソルダは屋敷の
何を思ったか、おしりを上げて
イザベラの鋭い叱咤を受け、イソルダは気張り体勢をお座り状態へと改める。
やはり人を頼るべきではなかったか……。
良き人間を捜すという目的が途方もないものに思えてくる。
それっきりイザベラは口を
当時のことを彼女は話したがらない。
おそらく良い思い出ではないのだろう。
ほどなくして、小さな森を抜けて道路に出ると――
またしても人間に出くわした。
しかも今度は数が多い。
道路の向かい側からやって来たのは、小さい人間が二人、大きい人間が一人。
それに紐でつながれた犬が一匹だった。
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