第112話 決着
文字数 3,035文字
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メデアとイソルダは、果敢にワルに跳びかかっていく。
急接近する子どもたちを前にして、途端にワルのシッポがブワッと逆立つ。
ワルは動揺しつつも後ろに飛び退く。
子どもたちの突進をどうにか回避すると、
ワルの反撃。
前足を乱暴にふるって、子どもたちを傷つけようと躍起になる。
メデアとイソルダは、勢い余って前へ倒れ込みそうになった。が、堪えてその場に踏みとどまる。
空を切るワルの攻撃。
両者の攻撃は不発に終わったものの、戦意は衰えず、さらなる一手をくり出そうと睨み合う。
緊張状態も束の間、相手のすっかり膨張しきったシッポを見て、子どもたちはからかいだした。
ふたりは同時に跳躍し、ワルに跳びかかった。
メデアとイソルダのWパンチが、ワルを左右から挟撃するように襲いかかる。
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ワルめがけて突き出したふたつの拳が、相手の体を打ち据える。
とめどなく放たれる連続攻撃。
ワルはかわすが、そのすべてをよけきれない。
メデアの拳がワルの額を打ち、イソルダの平手打ちが頬を叩く。
驚愕に揺れる瞳。
体が傾き、勢いに押されてその場に崩れる。
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ワルは激しい唸り声をあげた。
それは獣の咆哮にも似た、凶悪な叫び――。
床にガリッと爪を立て、体を起き上がらせる。
息つく間もなく、子どもたちへ襲いかかった。
おれは床を蹴って子どもたちの前に跳び込んだ。
むき出しの牙が目前に迫る。
俊敏に動けば、かわせる攻撃だった。
だが、おれはよけない。
相手をグッと睨みつけたまま、あえて正面から受ける。
ワルの爪が毛を散らし、表皮をかすめた。
横顔に痛みが走り抜ける。
人間たちが注意しても、ワルは耳を貸す気などないらしい。
おれの動きを警戒しながら、疑問をぶつけてくる。
おれの拳が閃く。
勝負は一瞬。
ワルの体ごと、視界の隅へはじき飛ばす。
這いつくばったまま激しく鳴く。
部屋を突き抜けるような悲鳴が続いた後……
やがて声が静まった。
魂の抜けたような体が、何事もなくスッと起き上がる。
すでにワルの気配はなかった。
ギラついた雰囲気は、異次元に呑まれたように消え失せている。
彼の顔には、闇の深淵にたゆたう霊がまとわりついたような濃い影が差していた。
メデアとイソルダは、うれしそうにシッポをピンと立てた。
そこへ唐突に、ひとりの猫がこのプレイルームへと駆けこんで来た。
荒い息をつく母猫のもとに、子どもたちは歩み寄っていく。
その姿がいつもよりひと回り大きく感じられて、ふとおれの心は感動に揺さぶられた。
体を撫でようとおれが近づくと、ふたりは顔を見合わせて顔をしかめる。
気が動転して頭が真っ白になる。
たとえかつての仲間たち全員に裏切られたとしても、これほどの衝撃は受けないだろう。
全身が燃えそうなくらい、血が沸騰していた。
百戦錬磨のおれでも、さすがにパニックに陥らずにはいられない。
メデア! イソルダ!
一体おまえたちに何が起こったというのだ……!?
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