第35話 猫の悩み
文字数 2,256文字
この家に来てから、一夜明けて――。
ハッと目を開ければ、対面のケージにいるイザベラが潤んだ瞳でおれを見つめている。
おれがその場から
娘の足元にある四角い容器は、人間が用意したネコトイレというものだ。
容器の中には、公園などの砂とはおおよそ形状も質感も異なる人工的な砂が入っている。
イザベラがいうには、屋内にいる猫はみんなこの人工トイレで用を足すものと決まっているらしい。
たったいま断念したばかりだが、まわりから注目されていなければ、スッキリと出すものを出していたはずなのだ。
それがなんとなく落ち着かないという理由から、出すものも出せずにいる。
我ながら、なんと情けないことか……。
メデアが用足しを終えると、イソルダが不満げにこぼした。
メデアは慌てて砂を手でかき寄せて、自らの痕跡を隠した。
ニオイは緩和したが、それで根本的な問題が解決したわけではない。
年頃の娘なのに不憫だ……。
おれと子どもたちは今、一つの囲いの中で生活を共にしている。
ケージの大きさは縦も横も適度なゆとりがあるから、個々に丸まって寝る程度のスペースなら確保できなくもない。
しかし、トイレはたった一つだけ。
たった一つのトイレをみんなで使う――
そんなことは、これまで生きてきて一度もしたことがない。
外にいれば外敵に襲われるリスクが常につきまとう。
トイレ中は隙が多くなる分、警戒しなくてはならない。
イソルダはふざけて姉のもとに跳びかかった。
砂を飛び散らしながら、メデアは平手打ちで応戦する。
しかしトイレ使用中、常に誰かがそばにいるのは落ち着かん……。
おれの正面、壁際に置かれたケージには、イザベラがいる。
イザベラのケージは、おれたちのものより小型だ。
とはいえ彼女しかいないので、窮屈であったとしてもトイレは占有できる。
肝心のモノは出ないが、つい不満が口をついて出てしまった。
とはいえ、子どもたちと切り離されるのは我慢がならんし……。
すると、聞き覚えのある声が遠くから響いてきた。
耳を澄ましてヤツの動向を窺っていると……
その足音はみるみるこちらに接近し、たちまちドアがひらかれた。
おれが牙を
猫オタは顔だけ上げ、恐る恐るおれを見つめる。
相変わらずその瞳からは、カラスに小便をひっかけられたような雫が
猫オタは廊下に立てかけておいた金属の骨組みを運び込むと、その場にしゃがみ込んで作業を始めた。
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