第53話 堕落した猫たち
文字数 2,383文字
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猫の目から見ても夕陽とわかる光がマタタビの森に注いでいる。
森へ入って、ニオイを頼りにしばらく進むと、野良猫たちに出くわした。
その4匹のうち3匹が、倒木の上にだらしのない格好で寝そべっている。
落ち葉だらけの地面を踏みつつ、おれが接近していくと――
彼らはやや背を伸ばし、前足をサッと出して警戒の姿勢をとった。
ところが。
彼らはすっかり脳が溶けているかのようなトロンとした表情で、緊張感のカケラもないように見える。
猫たちの足元には、残骸と化したマタタビが散らばっていた。
それもかなりの量だ。おそらく頻繁にマタタビを摂取しているのだろう。
そのオス猫たちから少し離れたところに、メス猫がいる。
唯一、知っている顔だった。
ヤミミンはひとり切り株の上に、だら~んとおなかを広げて寝転んでいた。
マタタビで酔っているにせよ、ボス猫に接するにあるまじき振る舞い。
完全に舐め腐った態度だ。
しかし、もう組は解散し上下関係も消滅しているので、やむなきこと……そう割り切って黙殺する。
一喝しただけで、すぐ
マタタビでヘロヘロになっているとはいえ、情けないヤツらだ。
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……たとえ何があろうと、こうはなりたくないものだ。
さすがに胸糞が悪くなってきた。
衝動の波に押されてキレそうになるが、それでは目的を失ってしまう。
ひとまず微笑むイザベラの顔を思い浮かべて気を静める。
ひと息ついてから説得を試みた。
やかましく騒ぐ野良猫たち。
怒りをもって威嚇すると、ニャーニャー不満を垂れていた野良猫どもは火に水を注がれたように静まった。
あからさまに耳を伏せ、石のように固まっているオス猫たちを
心まで許すわけじゃない――。
おれも以前はそう思っていた。
けれど、いまは少しずつ人に対する考え方が変わっている。
ヤミミンはきっぱりと言い放つと、切り株からサッと下りた。
不満げにシッポを揺らしながら、こんもり葉っぱの詰まった茂みのほうへ行ってしまう。
野良猫たちも次々に地面へ下り、ヤミミンを追っていく。
精一杯の虚勢を張ってオマケ野郎は捨て台詞をはくと、足早に去っていった。
失敗することなど考えていなかっただけに、虚無感につつまれる。
だが、こんなところで立ち尽くしていても何にもならない。
おれはその場を離れるため、落ち葉だらけの地面を歩みながら来た道を戻っていった。
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