第28話 先住猫の歓迎

文字数 1,773文字





オマエたちにこの家を汚されるくらいなら、先に汚してやる!





 名前も知らない猫は、おれに宣戦布告してきた。



 元ボス猫のおれにケンカを売るとは不敵というかなんというか、屋内育ちの猫は命知らずなのか?



なぜ敷物にあのようなことを?



そんなの決まっている。

挨拶代わりのマーキングだ!



マーキングだと?

では、この敷物は貴様の物だとでもいうのか?



そんなことはどうでもいい! 

とにかくここはオレの縄張りなんだ!


部外者が軽々しく踏み荒らすな!



フン、ひどく手の込んだ歓迎だな。

このようなマネをして、タダで済むと思っているのか?



噂は聞いている。

オマエはねこねこファイアー組のボスだったらしいな!?



いかにも。

おれの名は、(くれない)


ねこねこファイアー組は、我が力のみで築きあげたといっても過言ではない!




 ちょっと威圧気味に応じただけだが、相手はあからさまに動揺している。



だから何だ! 

ボス猫だからって偉そうするな!


ここでは、ボス猫よりも〝先住猫(せんじゅうねこ)〟が優先されるんだ!


調子に乗っていると、他の連中にもけしかけて、仲間外れにしてやるぞ!




 敵意むき出しのオス猫は、ウゥ~と唸り声を交えつつ、柵越しにおれを威嚇してくる。



 ボスだろうと見境なくケンカを売る行為は、野良猫社会ならわりとよくあることだ。



 だが、ここは野良猫社会ではない。



 中心となるリーダーはあくまで人間であり、猫に絶対的主導権はない。



 にもかかわらず――



フフフ……



何がおかしい!?



いや、少し意外だったものでな



なにがだ?



こんな場所でも縄張りを主張したりだとか、新入りにケンカをふっかけたりだとか、荒っぽいマネをしてくる(やから)がいるのかと驚かされたのだ



なっ……!

バカにしているのか!?



そうは言わんが無用であろう。

縄張りを定めたところで狩りをするわけでもあるまいし



……!



それにだ。

貴様のシッポは太くなっているわりに、体の下に巻き込むかのごとく下がり気味ではないか


その態度は威嚇というよりも、弱腰である証拠。

大方、恐怖を無理に(こら)えているのであろう?



違う!



いいや、身体の反応はごまかせん。

威勢のいいわりに、内心は小心者のようだな


それならばなおのこと、命知らずな行動は控えたほうが身のためだぞ




 おれが言い終えると同時に、左右にいるメデアとイソルダが荒ぶる声を響かせる。



フゥゥゥゥ~~~ッ!


ウナァァァ~~~ッ!



……っ!



くっ、くぅぅぅぅぅ~っ!

生意気なガキどもめぇ!




 そう悪態をつきつつも、ある部分はやはり正直な反応を示していた。



そのシッポ……。

子猫に脅かされて、よりシッポのふくらみが増したぞ


どうやら子ども相手にも動揺を禁じ得ないようだな



オレのシッポは普段からこうなんだ!

短毛種なのにボリュームがあるとよく言われる



ハイハイ、嘘猫(ウソねこ)にゃんころ~


そーゆうバレバレな虚言を吐くのは、やめとき~




 戸口から別の猫が姿をのぞかせた。



 長い毛が特徴的の猫で、声質や体格からいってメス猫に違いない。



ファーマ!

オマエ、ヤツの肩を持つのか?



んなことどーだってええし


それよりほら、見てみいな。

オーハラさん、めっちゃ困っとるやんか



あらあら、ツートンたらどうしたのかしら?

今日に限ってやけに気が高ぶってるわ


いつもはあんなに穏やかなのに……



やっぱり、ボス猫ファミリーと対峙したからじゃないですかね?


俺だっていきなり自宅に神が降臨してたら、ビビりますし



そうかもしれないけど、ツートンは本当に人懐こくて物静かなコなのよ


いままで一度だって、あんなふうに(うな)ることなんかなかったのに。

おかしいわねぇ……




 おれの後ろで人間たちが話している。



 ツートンというのはあの猫のことで、その様子が違うことを嘆いているのだろうか。



 どのみち普段のヤツを知らないおれにとっては理解しがたい話だ。




 すると――




……




 通路の奥から、また別の猫が現れた。



 サビ柄と呼ばれる三毛猫だ。



 彼女は階段の手すりの板の上にぴょんと乗って、ツートンへ静かな口調で語りかける。



そろそろいつものアナタに戻ったら?

さもないと、化けの皮が剥がれちゃうわよ



化けの皮……?




 意味ありげな発言に、おれはやや首を傾げた。



 それを見て、サビ柄の猫は面白そうに微笑む。キラリと輝く瞳。



 彼女は整った顔をおれに向けて言った。



彼はね、変な猫なの


とってもね……

















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登場人物紹介

紅 

ねこねこファイアー組の元ボス猫。

亡き友人であり部下でもあったオス猫に、妻のイザベラとその子どもたちを託され、結婚することになった。

夫婦仲は良好で近々子ども産まれる予定だが、生活は苦しく、落ち着ける居場所を求めている。

ワケあって住処を離れることとなったので、家族と共に町へ向かうが……。


イザベラ 

紅の妻。メデアとイソルダの母猫。

メデアとイソルダは、亡き夫とのあいだにできた子ども。亡き夫はねこねこファイアー組の幹部のひとりだったが、ニャニャ丸組との抗争により深手を負い、他界した。

知性的な猫であり、ドアノブに手を伸ばして開けることもできる。

メデア 

紅夫婦の娘。

生まれたての頃は甘えん坊だった。弟に冷めたツッコミを入れることが多いが、逆にからかわれることも。

紅が父猫になるまではボスとして遠巻きに眺めるだけだったので、なかなか同居になじめなかったが、共に行動することで次第に心をひらいてゆく。

イソルダ 

紅夫婦の息子。

幼いころから体つきが丸く、運動嫌いが拍車をかけ、筋肉量の少ない体形はぷよんとしている。

スコティッシュフォールドのミックスだった父猫の影響を受け、片方だけ折れ耳。

口癖に「ニャウ」を多用する。調子に乗って姉のメデアをからかい、反撃を浴びることもしばしば。

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