第154話 かわいいあの子は誰の手に?②

文字数 2,121文字





 猫オタに対し、

「貴様ァァァァァ――!」と唸りはじめたおれは、声を大にして喝を入れる。



血迷ったか、愚か者め!



「いきなりヒスイをくれ」などとほざく前に、ヒスイと親睦(しんぼく)を深めてから頼むのがスジというものだろう!



神猫様(かみねこさま)が怒ってる……っ!


もしかして、俺が里親になるのを嫌がっているんじゃ……!?



そんなことないわよ

ねぇ、神猫様?



言語道断!



……あ、これは間違いなく、怒ってるわね



あぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああ~!


やっぱり俺に子猫様を引き取られるのが嫌なんだぁぁぁぁぁぁ~!



軟弱者(なんじゃくもの)めっ!

娘が欲しいならまずは仲良くなれ、と言っているだけなのだぞ!


なぜ無用に(わめ)きたてる必要がある!




 おれが立て続けに鳴くと、猫オタはこちらを凝視して小首を傾げた。



……なんだろう?

神猫様が俺に何かを訴えかけている気がする……



猫オタよ、おまえはバカだ!






それも並外れたバカだ!





だが、おまえは立派な猫オタクだ!

猫が好きなら、(おのれ)の力で努力せよ!






やはり通じんか……。

ならば行動あるのみ。

おれについて来い!




 数歩移動し、後ろを振り返ってニャンと鳴く。それを何度か繰り返す。



 猫的には〝こっちへ来い〟と訴えているのだが、言葉の通じない人間には行動の意味を推理してもらうしかない。



もしかして……、

俺は神猫様に導かれてるのかな?








あら。

猫オタが後ろについてきたわ



やはりコイツの洞察力は卓越しているな。

もしかすると、前世は本当に猫だったのかもしれん



ハハ……。

あり得ない話じゃないわね




 猫オタを連れて2階へ上がり、猫部屋に行く。



 入り口付近にいたみつきが真っ先に出迎えてくれた。



おかえりなさいませ、親分様!



あ、パパ、ママー!



パパとママ、帰ってきたー!



おかえりミャア!



おかえりニィ~!




 元気いっぱい、走り寄ってくる子どもたち。



ただいま



みんな、ただいま



スリスリしたいミャア~!



くっつきたいニィ~!




 親子みんなで鼻チューをしたり、体を寄せ合っているところを見て、



うっほ! かわいい!




 後ろに佇んでいた猫オタが、フンフンと鼻息を荒くした。



 部屋に入ると、おれはさっそくヒスイに話しかける。



なぁ、ヒスイよ



ミャア?



おまえ、この猫オタをどう思う?



ザコー!



ザコ……?



図体でかいくせに、すぐ負けるミャア!

あたしに頭をかじられてたしミャア


人間のザコミャア! 

最弱(さいじゃく)ミャア~!



ひどい言われようね



ふむ。

まぁ、否定する気はない


ところで、もしこの猫オタがおまえを引き取って、ふたりで暮らすことになったらどうだ?



猫オタとふたり?



そうだ



拳で蹴散らしてやるミャアー!




 得意げに片方の拳を掲げるヒスイ。



……だそうだ、猫オタよ


言っておくが、子どもとは無邪気で活発な生き物なのだ


決してうちの娘が狂暴なのではないぞ



狂暴などではないのだからなっ!



そうね。

ちょっと勝気なだけね



おい!

聞いているのか、猫オタよ!

うちのヒスイを引き取りたければ、もっと娘と仲良くなれ! 


そして、ヒスイの心を掴むことだ!

でなければヒスイは、おまえのもとには行かんだろう



あぁ、なるほど! 

神猫様は、俺に子猫様方と遊んでほしかったのですね!


いまやりますんで、お待ちください!




 おれの指示が的確に伝わったわけではなさそうだが、猫オタはクローゼットからネコじゃらしを取り出すと、子どもたちをじゃらしはじめた。



ほ~ら、ネコじゃらしですよ~!



わあい!

ネコじゃらしミャアー!



さっそく跳びかかってきた!

ヒスイ様は誰よりも活発ですね~!




 フワフワの穂先へ、一心不乱に跳びかかるヒスイ。



 それを見て、声を弾ませる猫オタ。



お互い楽しそうだな。

ヤツが猫との交流を心から楽しんでいる様子が伝わってくる



もしも彼がヒスイの里親になったら、一生懸命面倒を見てくれそうな気がするわね



イザベラもそう思うか



ええ。

彼はちょっと情けないところもあるけれど、猫のことをきちんと気にかけてくれているわ


きっと猫が心から好きで、猫のために尽くすことに不満を感じない人なのね




 メデアとイソルダがいなくなってから、猫オタは以前より子猫たちと遊んでくれたり、おやつなどを持ってきてくれたりする回数が多くなった。



 猫オタなりに気を利かせているのかもしれない。



 いや、それだけじゃない。



 アイツもメデアとイソルダがいなくなって、寂しいのだろう……。



では、ヒスイを猫オタに託すか



いいの?

そんな簡単に決めてしまって



じつは前々から思っていたのだ。どうせ譲るなら、相手はうちの子を誰よりも大事にしてくれる猫オタにしたいとな


はじめはメデアとイソルダの里親に……と考えたが、苦学生の猫オタにふたりの猫は負担が大きいだろう


だがヒスイひとりなら、切り詰めればやっていけるはず



あなたがそんなふうに考えていたなんて



もちろんイザベラが不服ならやめるが



ううん、驚いただけで不服じゃないわ


元々猫オタは、わたしがここに来る前から目をつけていた人だもの



それもそうだったな




 おれがこのマジカル・ニャワンダにいるのも、イザベラが無事出産を終えることができたのも、元をたどれば猫オタがいたからかもしれない。




 いま、ようやくその恩に(むく)いるときが来たのだろう。





















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登場人物紹介

紅 

ねこねこファイアー組の元ボス猫。

亡き友人であり部下でもあったオス猫に、妻のイザベラとその子どもたちを託され、結婚することになった。

夫婦仲は良好で近々子ども産まれる予定だが、生活は苦しく、落ち着ける居場所を求めている。

ワケあって住処を離れることとなったので、家族と共に町へ向かうが……。


イザベラ 

紅の妻。メデアとイソルダの母猫。

メデアとイソルダは、亡き夫とのあいだにできた子ども。亡き夫はねこねこファイアー組の幹部のひとりだったが、ニャニャ丸組との抗争により深手を負い、他界した。

知性的な猫であり、ドアノブに手を伸ばして開けることもできる。

メデア 

紅夫婦の娘。

生まれたての頃は甘えん坊だった。弟に冷めたツッコミを入れることが多いが、逆にからかわれることも。

紅が父猫になるまではボスとして遠巻きに眺めるだけだったので、なかなか同居になじめなかったが、共に行動することで次第に心をひらいてゆく。

イソルダ 

紅夫婦の息子。

幼いころから体つきが丸く、運動嫌いが拍車をかけ、筋肉量の少ない体形はぷよんとしている。

スコティッシュフォールドのミックスだった父猫の影響を受け、片方だけ折れ耳。

口癖に「ニャウ」を多用する。調子に乗って姉のメデアをからかい、反撃を浴びることもしばしば。

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