第29話 フレンドリー
文字数 2,564文字
家に入るなり先住猫に因縁をつけられたあと――
不機嫌そうに唸り散らすツートンを見て、オーハラは慌てておれたちを2階へ連れていった。
連れて来られた部屋は、猫専用の空間のようだ。
人や犬のニオイが薄い反面、猫のニオイが強すぎる。
おれと子どもたちはいま、みんなで一つの檻の中にいる。
ともかくもおれたちは猫オタの裏切りにより、このケージとかいう閉鎖空間の中に押し込められてしまった。
行動の自由を失って、途方に暮れるしかない。
状況もわからず狭い場所に閉じ込められて、子どもたちはイライラしている。
もちろん、おれも愉快じゃない。
第一、ここにはイザベラがいないのだ。
せめて彼女がそばにいてくれたなら、心は安らぎ、身の窮屈さなどに囚われなくて済むものを……。
姉のメデアが煩わしそうに首を振って愚痴をこぼすと、弟のイソルダがふと思い出したように疑問を口にした。
場所の窮屈さは不満でしかないが、ノミの被害がたちまち激減したことについてはさすが人間のなせる
子どもたちと他愛もない話に興じていると、部屋に足音が近づいてきた。
足音は人のものではない、猫によるものだ。
わずかな振動から伝わってくる情報を分析すると、相手は複数で、こちらへ急いでいるらしい。
ガチャッ!
突然ドアの取っ手が音を立てて動いた。
ほぼ同時にドアがひらく。
突然、ドアの隙間から手が出てくる。
その猫の手がドアを前方にやって、通行に差し支えない程度にまで扉を押し広げた。
直後、見慣れた姿が視界にとび込んできた。
ドアをこじ開けて入ってきたのは、イザベラだった。
その後ろには、例の謎の猫たちもいる。
イザベラは、脇目もふらずにおれたちのもとへ駆け寄ってきた。
口をついて出たおれの疑問に、別の猫たちが部屋に入りながら答えた。
そこに至るまでの過程を、おれはケージにいながら注意深く聴いていたから、それなりに物事を把握していたつもりだった。
だがまさかイザベラがケージの外にいるとは思いもよらなかった。
ちなみに猫オタはすでにこの家から去っている。
楽しそうに話をする、マジカル・ニャワンダの猫たち。
おれのいるケージへ、猫たちが寄ってくる。
三対四で向かい合い、お互いのニオイを少し嗅ぎ合って、自己紹介をしようという矢先のことだった。
玄関のほうから、人の声が聴こえてきた。
あのオーハラではない。中年男性らしさ全開の低音のつよい声だった。
それとほぼ同時に、キャンキャンと犬の鳴き声も響いてくる。
人間が一人に、犬が二匹か……。
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