第49話 お別れ会②

文字数 1,514文字




貴様ァァァァァ……ッ!




 家族も含めてザコども・・などと、複数形にされるのは不愉快きわまりない。



 心に炎が燃えあがる。



 逆巻く怒り。怒気をはらんだ眼光が相手を突き刺し、赤々と焼き尽くすかのようだ。



 すると――



ウワッ!?


ウワワワワワッ!?




 突然、ツートンの様子が一変した。



 それまでの強気な態度はどこへやら、慌てふためいて、あからさまな逃げ腰になる。






 なんだその態度の変化は。



 おれが本気の姿勢を見せたからか?



 それとも、単にコイツが変なのか?



 いずれにせよ、ビビりすぎだろう。



ツートン。

ボクの大事な友達に、失礼なことを言わないでくれ



……オ……オレは何もしてないよ




 何もしてないとは、おかしな言い分だ。



めっちゃ悪口言ってたやん。

言い逃れはでけへんよ



うむ。

声は小さかったが、この老犬の耳にもしかと聞こえたぞ


口は災いの元じゃ。

無用な争いを招かぬよう慎むべきじゃろう



……っ……!


みんなして、そ……新参者(そいつ)の味方をするのかっ!?




 感情的すぎるツートンへ、イザベラが冷静に説いて聞かせる。



あなたは最初に(くれない)様と会ったときから、突っかかってきていたわね。

紅様は何もしていないのに……


後から来た者が気に食わないからといってケンカ腰になるのは、まわりの迷惑になるから慎むべきだと思うわ




 おれが不満を訴えるまでもなく、イザベラがきちんと主張してくれる。



 じつにありがたい。



イザベラの言うとおりだ。

迷惑行為は慎めよ




 相手がどう出るか、ひとまず遠巻きに眺めていると……



 アミがツートンのそばに近づいてなぐさめた。



ツートン……


あたしたちは、あなたのことを嫌ってるわけじゃない。

ただ、争いを好まないだけ



ほ、本当か……?

みんなでオレをのけ者にしようって、思っているんじゃないのか……!?



思ってへんよ



そんなことしないから安心して 




 彼女たちの説得を受けて、ツートンはうなだれる。



……ごめん……


どうやらオレは、この場を退(しりぞ)いたほうがよさそうだ




 彼は室内をトボトボ歩き、廊下にさしかかる手前で振り返った。



 か細い声で、ここを去っていく子猫たちに別れを告げる。



アミ、大地。

元気でな



ウン……



ツートンも元気でね



あぁ。

それじゃ、失礼する








 ツートンはおれたちに背を向けると、通路の奥へ消えていった。



 足音が遠ざかると、ファーマが吐息まじりにぼやきだす。



ようわからんコや。

あんな様子やから、しょっちゅうトライアル中に戻されんねん



トライアル?



トライアルは、譲渡(じょうと)した犬猫と里親側との相性を、一定期間共に暮らして試してみることや


相性がイマイチやったり、問題が発生したりすると、譲渡主へ返されるシステムなんよ



つまり、ツートンがその状態なのか?



せや。もう何遍(なんべん)も、里親から「うちには合わない」って突き返されとる


それを繰り返すうち、子猫から成猫(せいびょう)になってもうたんや


あのコ、見た目はエエほうやから、里親が決まるんは早いんやけどなぁ



仕方ないわ。

ツートンは変わり者なのよ



ボクよりずっと扱いにくそう



そうかもね



……


……




 なんとなく場の空気は白けて、ヒカリ爺とアカリ婆などはすっかり沈黙しきっている。



 それを振り払うように、ファーマが明るい口調で切りだした。



空気悪うなってもうたから、気分転換にみんなで遊ぶ?



賛成―っ!


大賛成、ニャウ!




 遊ぶ話が出た途端、メデアとイソルダは壁際へ駆け出した。



 壁際には、登り棒の立っている。



無理するんじゃないぞ



はーい


はーい



ボクも登る~!



じゃ、あたしも~!




 元気に走っていく子猫たち。



 微笑ましい図だ。




 それを見ているだけで、たったいま起こった不快な出来事は、頭の片隅へと消えていった。

















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登場人物紹介

紅 

ねこねこファイアー組の元ボス猫。

亡き友人であり部下でもあったオス猫に、妻のイザベラとその子どもたちを託され、結婚することになった。

夫婦仲は良好で近々子ども産まれる予定だが、生活は苦しく、落ち着ける居場所を求めている。

ワケあって住処を離れることとなったので、家族と共に町へ向かうが……。


イザベラ 

紅の妻。メデアとイソルダの母猫。

メデアとイソルダは、亡き夫とのあいだにできた子ども。亡き夫はねこねこファイアー組の幹部のひとりだったが、ニャニャ丸組との抗争により深手を負い、他界した。

知性的な猫であり、ドアノブに手を伸ばして開けることもできる。

メデア 

紅夫婦の娘。

生まれたての頃は甘えん坊だった。弟に冷めたツッコミを入れることが多いが、逆にからかわれることも。

紅が父猫になるまではボスとして遠巻きに眺めるだけだったので、なかなか同居になじめなかったが、共に行動することで次第に心をひらいてゆく。

イソルダ 

紅夫婦の息子。

幼いころから体つきが丸く、運動嫌いが拍車をかけ、筋肉量の少ない体形はぷよんとしている。

スコティッシュフォールドのミックスだった父猫の影響を受け、片方だけ折れ耳。

口癖に「ニャウ」を多用する。調子に乗って姉のメデアをからかい、反撃を浴びることもしばしば。

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