第80話 訪問者③
文字数 3,653文字
頭が痛いと苦しみつづけるゴマ団子。
おれがそばに近寄るよりも早く、ゴマ団子は
いや――
それが本当にゴマ団子なのか、もうおれにはわからない。
すでに多重猫格のツートンの中で変化が起こって、異なる別の顔が現れていてもおかしくはないからだ。
鋭い視線をトラヒコへ向け不服を唱える。
すると、近くで見ていた客たちがおれを横目で見ながら言った。
こんな人間相手に遠慮するのもバカバカしい。
おれは相手の一方的な決めつけに
女の客はウンザリしたような目で宙を
その
苦しみあえぐ声が徐々に引いていくと、
見覚えのある顔が目の前に現れた。
だがこの件に限っては、非難ばかりするのも違う気がする……。
これ以上話させまいとするかのように、ゼロの状態に変化が起こる。
邪気がゆらゆら立ちのぼる。
煮えたぎる怒りをみなぎらせて、ツートンの中からツートンではない別のキャラが出現した。
その殺気立った顔つきと好戦的な物言い――ワルかっ!
ワルはまず、客の一人に狙いを絞った。
中年男のもとへ跳びかかり、その手におもいきり噛みつく。
男はワルを払いのけようと、乱暴に手を振り上げた。
ワルの体は宙に投げだされるが、決してバランスを失うことはない。
見事な着地をキメ、今度は中年女の手に襲いかかる。
尖った牙が手首に喰らいついた。
その腕に両手を絡ませて身動きを封じると、両脚をふるって猫キックも放つ。
女は慌てて手を引きはがすが、その表面はすでに小傷だらけだ。
薄っすらと血の滲んだ赤い筋も刻まれている。
その場から立ち上がって、早々とリビングを出ようとする客たちをトラヒコが呼びとめる。
3人の客たちは玄関に向かうと、靴を履いて家を出ていった。
何を話しているのかわからんが、ひとまず落着したらしい。
おれは戸口に立って、オーハラたちの様子を見ていたが……
妙だぞ?
ふと背後から漂う気配が気になり、振り返る。
ツートン――ワルを取り巻く雰囲気があきらかに変わっている。
ひと言でいえば、闇――。
相手の立ち姿には、光さえも
感情的なワルとは打って変わって、言葉の響きに抑揚がない。
何を言っているのだ、コイツは?
ひとりのキャラクターがいきなり消滅するなど――!?
いくら心の中に生きる存在だからといって、たやすく消されるなどということが起こりうるのか――!?
おれには未だに信じられない。
それまで元気そうにしていたヤツが、唐突に消されてしまうなど――。
まるで突然命を奪われる野良猫のようではないか。
シャドーは答えず、沈黙を保っている。
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