第18話 心の空白
文字数 2,057文字
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無性にイライラする……。
気持ちは乱れるばかりで、まったく落ち着かない。
遠くでイザベラの声がする。
声に導かれて目を開けると、
毎日、ずっと一緒だったイザベラがそばにいない。
離れ離れになることがこんなにも不安な気持ちにさせるとは……。
いまより数時間前のことだった――。
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おれは水に濡れた地面を蹴って、イザベラのもとに駆け寄った。
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檻の中に囚われたイザベラは、恐怖におびえ、その場に立ちつくしている。
イザベラは罠にかかり、明らかに落ち込んでいた。彼女の体に触れて慰めたいが、どうにもならない。
クソッ……!
互いを隔てる金属の囲いが憎い……!
子どもたちはイザベラの過去に触れたせいか、人間の出現にひどく動揺しているようだ。
薄闇にまぎれて、公園の入り口から接近してくる二つの人影。
姿形はおぼろげでも、その正体は足音でなんとなく想像がつく。
この捕獲器を設置した人間たちと背格好も酷似していた。
おそらく同一人物に違いない。
そう言ってイザベラは、逃げ場を探すように捕獲器の中をグルグル回りだした。
イザベラがパニックを起こすなど珍しい。
きっと過去に背負わされたトラウマが混乱の引き金になっているのだろう。
それとは関係なしに、おれも気が動転していた。
――イザベラを奪われる――
そう直感的に察した途端、頭の中でギューーーンと血が昇る。
とにかく人間たちを
猛犬さながらに鳴いて叫んで、
人間たちはおれの動きを気にしつつも、イザベラの捕獲器のほうへ接近していた。
ヤツらは何かをしゃべっていたが、激高しているおれの耳にほとんど入ることはなかった。
そして、ついに恐れていた事態が起こった。
人間の一人が、イザベラのいる捕獲器を手に掴み持ち上げたのだ。
牙を剥き、跳びかかる。
狙いは、捕獲器を持つ人間の手だ。
だがおれの動きに気づいて、人間はその場から走りだす。
もう一度噛みつこうと、体勢を立て直すが――
もう一人の人間が、威嚇するおれにライトの明かりを向けてきた。
行動の自由を奪う、まばゆい光。
猫は強い光に弱い。
目がくらんで、体がその場に縫いつけられたように動かなくなってしまう。
泣き叫ぶイザベラの声。
なんとかしなければ……!
しかし焦れば焦るほど、どうすれば彼女を救えるのかわからなくなってくる。
イザベラの姿も、彼女を助けだす手段も、どんどん遠のいていくようだ。
おれの願いに反して、またたく間に遠ざかるイザベラの声。
このままでは彼女が手の届かないところへいってしまう――!
そんなのは、嫌だ……!
心から発する痛烈な叫び。
けれどもどれだけ叫んでも、現実は無情だった。
力及ばず、イザベラは人間たちに連れ去られていった――。
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やがて夜が明けた。
雨が上がり、白んだ空気が去って、園内や木立の向こう側まで見渡せるようになる。
水飲み場にたまった水を飲んでいると、後ろのほうから聞き覚えのある声が響いてきた。
自転車というものにまたがって、一人の男が園内に突っ込んでくる。
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