第109話 真相
文字数 2,859文字
静かなる真夜中。
おれはひとり、和室の押し入れに籠って眠っていた。
ところが、静寂を破って小さな音が聞こえてくる。
耳を澄まして様子を窺うと、音の正体は明らかになった。
接近してくるのは、足音だった。
おれは身を起こし、戸口をのぞき込んだ。
イザベラはどこか悲しげな表情をおれに向けつつ、ゆっくりと部屋の中へ入ってくる。
それから薄暗い押し入れの中に跳び込むと、おれのほうへ身を寄せてきた。
イザベラの顔は、猫部屋で会話したときと打って変わって申し訳なさそうだ。
あれほどニオイを嫌がっていたのにもかかわらず、おれの体を舐めてくれる。
イザベラは周囲を気にしながら、忍び足で移動していく。
事情はわからないが彼女が警戒しているので、おれもひっそりとあとについていくことにした。
猫部屋に着くと、ドアの隙間にスッと体を差し入れる。
何時間ぶりかで、子どもたちのいる部屋に戻ってきた。
気持ちよさそうに眠る子どもたち。
見ているだけで心が安らぎにつつまれる。
ツートンは術後のおれをいたわってくれた。
あのあと肩を並べて飯を食った仲でもある。
これまで色々と揉め事はあったが、彼に対するわだかまりは解けたといっていい。
拳をふるって八つ裂きにしてやろうかと、怒りがこみ上げてくる。
さきほども言ったが、ツートンとは昨日の去勢以降、少し打ち解けた。
だが、彼の中にいるその他のキャラは別だ。
とくにあのワルは、トラブルを量産する問題児でもある。
仮にツートンと無二の親友になったところで、ヤツが存在しつづける限り、平穏に落着することはないだろう。
いっそツートンがこの家から出ていってくれれば話は早いが、彼が里親へ行く話は流れたままだ。
おれはイザベラの隣に腹を出してゴロンとなった。
イザベラもおれと向き合ってゴロンと横になる。
じっと見つめ合ってから、互いの毛を舐め合う。
イザベラはおれの体に触れても嫌そうな顔をせず、丹念に舌で毛を撫でてくれた。
よかった……。
この時間が戻ってくれて、本当によかった……。
ミヌ、カンタ、ヒスイ、まれ。
みんなを起こさないよう、そっとケージの中へ足を踏み入れる。
子猫たちに顔を近づけると、小さな体に頬ずりをした。
この時間を永遠に保存できたら、どれだけいいだろう。
おれは一番近くにいた、まれの腹部に顔をうずめる。
小さな寝息を立てて横たわる、まれ。
イザベラが嬉しそうに微笑む。
と、そのとき――
彼女の後ろでメデアとイソルダがモゾモゾと動き出した。
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