第153話 かわいいあの子は誰の手に?
文字数 3,153文字
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おれのかわいい子猫たち。
外は湿気にまみれの梅雨空でも、室内は子猫たちがはしゃいでいるから陽気な熱に満ちている。
子猫たちの成長はめざましく、ヨチヨチ歩きはもう卒業だ。
歩調はトコトコ歩きへと変わり、瞬発力や加速力も増してきている。
ふと感慨に誘われて、かすかなつぶやきが洩れた。
おれの独り言に反応して、イザベラが答える。
イザベラは子どもたちを見つめて微笑み、愉快そうにシッポを振った。
イザベラの意見に同意はしたが、本音を言えば子どもたちと一緒にいたい。
できることなら手放したくない……。
だが、こればかりはどうしようもないことだ。
子どもたちの未来のため、よい引き取り主を見つける。
それがおれたち猫にとって、あるいは人にとって、最良の道であると思い直したのだから――。
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昼食を取った後、イザベラと共に下へおりた。
他の者達への挨拶と巡回とを兼ねて、家の中をウロウロする。
リビングへ入ると、甘いニオイが漂ってきた。
ダイニングテーブルを囲うオーハラたちが、菓子をつまんで世間話をしているようだ。
背後に忍び寄って立ち聞きをする。
会話が止まったところを見計らって、おれは並んで椅子に座っているオーハラとトラヒコのそばへ寄る。
二人の足元を行ったり来たりしながら、おれなりの〝おさわりしていいぞアピール〟を試みると……
さっそく気づいたオーハラとトラヒコが身を屈め、おれのほうへ手を伸ばしてきた。
二人の手がおれの額と顔に触れた。
頭を掻かれるのも悪くはない。むしろ心地がいい。
軽くシッポを振りながら目で訴えると、二人は手の位置を動かして首回りをまんべんなく掻きはじめた。
偶然にせよ、ちょうどカユいところに指が当たって、おれの抱えていたストレスは一気に解消される。
すると猫オタが席を立ち、床に這いつくばった状態でおれのほうにすり寄ってくる。
何を興奮しているのだ、おまえは。
猫オタは、脈ナシのメス猫に少しでも近づこうとするオス猫ばりに片手を伸ばしてくる。
が、
おれは体を引いて、その暑苦しい動きをサッとかわした。
無意味に涙を放出させ、消沈する猫オタ。
猫以上に猫背の姿勢をとって、そのままトボトボと部屋を出ていく。
どうやら猫オタは洗面所へ行って、トイレに入ったようだ。
しかし個室に籠ったところで、猫の聴力は些細な音を拾ってしまう。
猫オタはトイレットペーパーをカラカラしながら、独り言をこぼしはじめた。
おれはイザベラと廊下へ出て、洗面所の入り口で待ち伏せた。
猫オタがトイレから出てくると、質問を投げかける。
会話が噛み合ってない気がするが、そんなのはいつものことだ。
猫オタはおれの前にしゃがみ込んで、指先を近づけてきた。
指の内側から、トイレットペーパーのニオイがする。
そのような手でおれに触れようとするとは――!
おれは平手で猫オタの手をピシャリと打った。
しかし猫オタは
それからほどなくすると、猫オタはオーハラたちに呼ばれた。
おれもそのあとを追いかける。
猫オタのその発言は、おれにも理解することができた。
おれの全身の血は、熱く煮えたぎる。
①ふざけているのかっ! 娘はやらんぞ!
②血迷ったか、愚か者め!
③おれにケンカを売るとは上等だ! 血祭りにしてくれる!
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