第64話 おかしな猫の秘密
文字数 2,659文字
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おれを呼ぶトラヒコの声には温かみがあった。
近づいても悪い扱いを受けるようには思えない。
けれど……
ツートンのおかした悪事をおれが疑われるはめになり、心の中では不満が増大している。人の呼びかけに応じる気になどなれない。
階段に留まったまま動かずにいると……
ファーマがトラヒコの足元をするりと抜けて、階下へ寄ってきた。
おれたち家族は先を行くファーマに続き、2階へ上がっていく。
後ろからトラヒコの残念そうな声が聞こえてくる。
少々ためらいが生じたが、おれは歩みを止めず進み、振り返りもしなかった。
ファーマは猫部屋へ入ると、目と鼻を働かせて周囲に目を配る。
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去勢とは、オス猫が子作りするためのモノを切って、完全に機能を失わせることをいう。
去勢……。
オスには重い響きだ。
局部が切り取られる場面を思い浮かべるだけで恐ろしくなるというか、股間にキィーンと痛みが走るようである。
ファーマの言うとおり、ツートンは去勢している。そんなことは初見からなんとなくニオイで感づいていたことだ。
だが、何かがおかしい。
ツートンが去勢しているという事実に、強烈な違和感が伴う。
なぜだ?
なぜ……?
…………なぜなのだ…………!?
カチリ――
記憶の中で欠けていた何かがはまって、音がしたようだった。
ファーマの発言を最後に、重い沈黙がのしかかってきた。
みんな驚きの波に呑まれてしまって、言葉も出せずにいる。
いずれ驚きの感情が去ったとしても、残されるのは謎ばかりだろう。
その謎を奥底にかかえたツートン自身が真実をさとっているのか、おれには見当もつかなかった――。
その猫さんは、
撫でられてゴロゴロいっていたら、突然ハッと目を見開き
「アンタ誰よ?」みたいな顔をする。
おなかをゴロンとみせて甘えてきたと思ったら、ゾンビから逃げるエキストラばりの猛ダッシュで走り去っていく、など他多数……
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