第9話 馳走にあずかる
文字数 2,711文字
猫オタの
前のめりになって、キャットフードにかじりつく子どもたち。
猫オタは目からダラダラと汁をこぼし、頬を濡らしている。
彼は振り返って、おれのほうへ近寄ってきた。
ただおれがおまえの興味を惹いているあいだに、妻や子どもたちに移動してほしかっただけだ。
猫がどんなに俊敏性に優れていても、ジャンプ中にちょっかいを出されたら、ケガをするかもしれんからな。
おれの意図どおり、メデアとイソルダが隙に乗じて窓から跳び込んできた。
子どもたちが無事入室すると、最後にイザベラが跳ぶ。
全員が柔らかい足場に着地すると、猫オタは信じられないものを見るかのように声を弾ませた。
猫オタはとてもうれしそうだ。
ろくでもない人間もいるが、イザベラの見立てどおり、この男はただ猫を飼いたがっている猫好きかもしれんな。
室内に入ると、子どもたちはスンスン鼻を働かせて、室内を隅々まで探索してまわる。
猫オタは台の上にあった四角いモノをひったくるようにしてすばやく手に持つと、それをおれたちのほうへ向けた。
一瞬の間を置き、カシャっと耳障りな音を発する。
言いながらも、イザベラは猫オタから離れて距離を取りたそうだ。
一方猫オタは、カメラとして使っていた四角いモノを握りしめると、それを台の上に置いてフゥーと深呼吸をした。
猫オタは独り言を繰り返しながら別の部屋に行ってしまった。
奥の部屋からは、扉ごしにジャーと水の流れる音が聞こえてくる。
戻ってきた猫オタの両手には、器が二つ握られていた。
片方は透明だから、水面がユラユラしている動きをなんとなく把握できる。
よくわからんが、おれは足元に置かれたその容器に口を近づけ、やや慎重に舌を動かす。
さっそく水を求めて容器のそばに群がる姉弟猫。
舌先で水をピチャピチャはじいて、潤いとは無縁だったノドに水分を与える。
イザベラは窓の下にじっと佇んだまま、水の容器に近づこうとしない。
やはり人間恐怖症の影響が表れてしまっているようだ。
猫オタはその場にしゃがみ込み、おれの目線に合うように大きな体を縮めた。
まるで潰れかけたダンボール箱のようだ。
そうしてゆっくりとこちらへ水気を含んだ白いモノを近づけてきた。
なんだ!?
猫は水に濡れるのを嫌うと知らんのか!?
おれの身に、なんともいえない緊張が駆け抜けていく……。
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