第152話 ファーマの遺言
文字数 3,462文字
昨日の一件から一夜明けて、朝になった。
オーハラが血相を変えて廊下を走っていく。
急ぎ足で階段を下ると、慌ただしく支度にとりかかった。どこかへ出かけるつもりのようだ。
おれはイザベラと共にファーマの部屋に向かった。
ファーマの部屋は同じ階だから近い。
開いたドアから、人間用のベッドが見える。
その中央にこんもりとした膨らみがあった。ファーマは
室内に入って声をかけると、ファーマはまぶたを重そうに開けて答えた。
かすかに微笑んで答えるが……
声や表情に張りがなく弱々しい。
ファーマは体勢を変え、カタツムリの殻のように丸くなる。
突然ファーマが体を起こして咳込む。
ファーマは軽くうなずくと、おれたちのほうへ向き直った。
おれにとって家族との触れ合いは至上の癒しだ。
たとえどれほど深い心の傷を負ったとしても、やわらかであたたかな感触が痛みを鎮めてくれる。
近頃、人間も例外ではない。
先日オーハラに触れられたとき、心に小さな炎が灯ったようだった。
おれの中で、人に対する親愛の念が生まれたからだろう。
これからも人と暮らしていく限り、その親愛の炎は絶えることなく続いていくはずだ。
翌朝、ファーマは動物病院へ連れて行かれた。
体調不良の原因は、ネギの葉先を噛みちぎって食したことによる一時的な食中毒だった。
それまでの体調不良が嘘のような元気いっぱいの声がリビングに広がっていく。
オーハラはうれしそうに笑って、おれたちにおやつをふるまった。
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