第90話 村人、成功体験を得る
文字数 1,856文字
土佐犬駆除の1時間後、課長の娘が感知したのだ。今度の妖物は先ほどよりは可愛げのある、ちょっと大きな猪タイプたちが2匹。見た目もだが、娘曰く、D程度のレベルだろうとのこと。一般有術者も稽古の一環で遭遇した可能性があるレベルだ。
参加者たちは、事前に割り振られた5人組で駆除に当たった。桜は意図的にグループから外されており、次の回があったとしても、駆除にあたることはない。それは参加者全員が暗黙の裡に理解していた。
やはり始めは皆びくびくし、襲い掛かって来た猪に逃げまどっていた。しかし一人が勇気ある行動を起こすと、それに引っ張られ、続けとばかりに自身の能力を使い始めた。
日ごろの鍛錬の成果を発揮しようと奮闘するも、それぞれの動きがかみ合わない。
前髪をぱっつり切ったおかっぱの一宮あさひが凛とした声で、「チームワーク、チームワークですよ! どう動けば、攻むの人がとどめをさせるか考えてくださいねー。頑張ってくださーい!」アドバイスと声援を送る。
だんだん連携の取り方が分かって来た面々は、声を掛け合い始めた。
すると、樹と同じ能力を持つ背の高い高校生が、猪を静止させた。わずかな機会を狙って、同じく高校生の三宮柏が、青緑色の閃光とともに妖物の胴体に日本刀を切り下した。
もう一匹の猪タイプは30代前半の社会人が駆除した。参加者たちは「意外とできた」「私でもやれるんだ」など、この成功体験に興奮していた。
初めて妖物を駆除した柏は誰よりもワクワクしており、自分の力は意外と使えることが実証され、自信が湧いてきた。
その隣にあさひがすっとやってきて、柏の耳元に話しかける。
「柏君、意外と筋がいいね。この調子で頑張って」
「は、はい」
久しぶりにあさひに話しかけられた柏は、魅惑的な声にわずかに耳と頬を染める。
「あさひさんって、神秘的な感じで素敵だよね~」自然環境課の若い女性職員が羨ましそうに言う。
「確かに。不思議な雰囲気だし」
「クールな葵さんも目の保養だけど、私は断然、中性的でミステリアスなあさひさんなのよね。神秘性大事よ!」
「あのひと女性でしょ?葵さんと比べるのは」
「え、男子でしょ?」
二人は目を合わせながら首を傾げた。
「どっちでもいいんじゃないか。魅力的ならさ~」
青葉はそうコメントし、二人の横をさっと通り抜けていった。
◇◇◇◇◇
その後も続々と妖物が出てきてくれたおかげで、見学会と体験会は大盛況のうちに終了した。参加者たちは自信を持てたようで、解散場所の役場の駐車場でも「大丈夫そう」「稽古って意外と役に立っているんだな」などの感想が飛び交っていた。
課員たちは報告の打ち込みや駆除道具の片づけ等のため、役場へ入っていった。
「うん、やっぱり普段みんな鍛えてるから、筋が良かったな。これなら一緒に駆除できるんじゃないか」
課長に報告メールを打つ伊吹が、楽観的に今日の会を評した。
「イブっちはそういうけど、僕はちょっと心配な人いた。そういう人はあんまり参加させないほうが良い気もするんだけど」
「そんなことも言ってられないだろ、樹ちゃん。このままだと過重労働で死んでしまうからね、オレらが。振休ないし、有休使える雰囲気ないし。使えるものはガキでも老人でも使っていかないと」
蓮のぶっきらぼうな物言いに、樹はあきれた。
「レンレンったら~分かるけどね、言い方、言い方あるでしょ」
「分かったらだめだろ樹ちゃん、村民を守るのが我々の仕事なのに!」
「課長なんてそのつもり満々じゃないか。自分の父親と娘さんまでこき使って、今頃街のサウナでも行ってるんだよ。あーくそ、これからサウナ行こ」
「いいね、サウナ! そうだ、今度、動対課男子全員でサウナ行こうよ。ねえ、あさひ君も裸の付き合い」
伊吹があさひの席の方に声をかけると、そこはもぬけの殻だった。片づけを済ませたあさひはすでに帰宅しており、姿はなかった。
「あさちゃん女子よ。係長がセクハラでーす! 奥さんに言っちゃお~」
「男子だろ。まだ彼の歓迎会もしてないし、サウナで歓迎会もいいだろ」
蓮が「巫女姿でお伝え様のところにいたけど」、樹が「たまにスカート履いてるじゃない」情報を加える。
「何っ!? どっちだ!? 男装女子か女装男子か!? 歓迎会はサウナじゃないほうがいいか!?」
「そーいや、昔からよくわからない子だったな。アイツの性別なんてどちらでもいいわ。サウナ行ってきます」
「かかりちょー、サウナで歓迎会はないとおもいまーす」
蓮と樹はそう言い残し、役場を後にした。
参加者たちは、事前に割り振られた5人組で駆除に当たった。桜は意図的にグループから外されており、次の回があったとしても、駆除にあたることはない。それは参加者全員が暗黙の裡に理解していた。
やはり始めは皆びくびくし、襲い掛かって来た猪に逃げまどっていた。しかし一人が勇気ある行動を起こすと、それに引っ張られ、続けとばかりに自身の能力を使い始めた。
日ごろの鍛錬の成果を発揮しようと奮闘するも、それぞれの動きがかみ合わない。
前髪をぱっつり切ったおかっぱの一宮あさひが凛とした声で、「チームワーク、チームワークですよ! どう動けば、攻むの人がとどめをさせるか考えてくださいねー。頑張ってくださーい!」アドバイスと声援を送る。
だんだん連携の取り方が分かって来た面々は、声を掛け合い始めた。
すると、樹と同じ能力を持つ背の高い高校生が、猪を静止させた。わずかな機会を狙って、同じく高校生の三宮柏が、青緑色の閃光とともに妖物の胴体に日本刀を切り下した。
もう一匹の猪タイプは30代前半の社会人が駆除した。参加者たちは「意外とできた」「私でもやれるんだ」など、この成功体験に興奮していた。
初めて妖物を駆除した柏は誰よりもワクワクしており、自分の力は意外と使えることが実証され、自信が湧いてきた。
その隣にあさひがすっとやってきて、柏の耳元に話しかける。
「柏君、意外と筋がいいね。この調子で頑張って」
「は、はい」
久しぶりにあさひに話しかけられた柏は、魅惑的な声にわずかに耳と頬を染める。
「あさひさんって、神秘的な感じで素敵だよね~」自然環境課の若い女性職員が羨ましそうに言う。
「確かに。不思議な雰囲気だし」
「クールな葵さんも目の保養だけど、私は断然、中性的でミステリアスなあさひさんなのよね。神秘性大事よ!」
「あのひと女性でしょ?葵さんと比べるのは」
「え、男子でしょ?」
二人は目を合わせながら首を傾げた。
「どっちでもいいんじゃないか。魅力的ならさ~」
青葉はそうコメントし、二人の横をさっと通り抜けていった。
◇◇◇◇◇
その後も続々と妖物が出てきてくれたおかげで、見学会と体験会は大盛況のうちに終了した。参加者たちは自信を持てたようで、解散場所の役場の駐車場でも「大丈夫そう」「稽古って意外と役に立っているんだな」などの感想が飛び交っていた。
課員たちは報告の打ち込みや駆除道具の片づけ等のため、役場へ入っていった。
「うん、やっぱり普段みんな鍛えてるから、筋が良かったな。これなら一緒に駆除できるんじゃないか」
課長に報告メールを打つ伊吹が、楽観的に今日の会を評した。
「イブっちはそういうけど、僕はちょっと心配な人いた。そういう人はあんまり参加させないほうが良い気もするんだけど」
「そんなことも言ってられないだろ、樹ちゃん。このままだと過重労働で死んでしまうからね、オレらが。振休ないし、有休使える雰囲気ないし。使えるものはガキでも老人でも使っていかないと」
蓮のぶっきらぼうな物言いに、樹はあきれた。
「レンレンったら~分かるけどね、言い方、言い方あるでしょ」
「分かったらだめだろ樹ちゃん、村民を守るのが我々の仕事なのに!」
「課長なんてそのつもり満々じゃないか。自分の父親と娘さんまでこき使って、今頃街のサウナでも行ってるんだよ。あーくそ、これからサウナ行こ」
「いいね、サウナ! そうだ、今度、動対課男子全員でサウナ行こうよ。ねえ、あさひ君も裸の付き合い」
伊吹があさひの席の方に声をかけると、そこはもぬけの殻だった。片づけを済ませたあさひはすでに帰宅しており、姿はなかった。
「あさちゃん女子よ。係長がセクハラでーす! 奥さんに言っちゃお~」
「男子だろ。まだ彼の歓迎会もしてないし、サウナで歓迎会もいいだろ」
蓮が「巫女姿でお伝え様のところにいたけど」、樹が「たまにスカート履いてるじゃない」情報を加える。
「何っ!? どっちだ!? 男装女子か女装男子か!? 歓迎会はサウナじゃないほうがいいか!?」
「そーいや、昔からよくわからない子だったな。アイツの性別なんてどちらでもいいわ。サウナ行ってきます」
「かかりちょー、サウナで歓迎会はないとおもいまーす」
蓮と樹はそう言い残し、役場を後にした。