第51話 橘平、先輩に対抗する
文字数 1,598文字
カーテンから漏れる朝の光が目にあたる。橘平はゆっくり瞼をあけた。
夢を見た。
起きてすぐ、それが頭に浮かんだ。
『君は入口の絵、描ける?』
「入口の絵?」
『村の真ん中にある森に入るための。扉みたいなもんかな』
「森の扉って何?どういうの?」
『君の想像でいいんだ。森が開くような絵が描ければ。別世界への扉さ』
頭の覚醒につれ、橘平は夢の内容をキレイさっぱり忘れてしまった。しかし、何かに導かれるように、無意識に、鉛筆を手にしていた。
いつかの夢である。
◇◇◇◇◇
橘平は優真たち同じクラスの仲良し組とともに、高校の屋上で昼のお弁当を食べていた。
白飯の上に海苔が敷かれ、焼き鮭の切り身がまるまる乗っている。別の容器にサラダもついた、母の弁当。おそらく父も今頃、同じ弁当を食べているだろう。昼時に向日葵と話すこともあるのだろうか、と箸で鮭の骨を取りながら橘平は役場のことを考えた。
橘平たちのグループから少し離れた場所で、三宮柏も友人たちとふざけあいながら昼ご飯を食べていた。
柏は卵焼きを口にした時、橘平の姿に気が付いた。あの夜のことをにやにやしながら思い出し、友人たちに「この間の夜さ…」と話し始めた。
「きっぺー?あの地味が?」
「うっそ、意外」
「いや、地味で目立たない背景みたいなやつこそ、裏でいろいろやってるんだって」
柏は悪意たっぷりに橘平を昼飯の肴にする。「裏でいろいろやってる」は意外にも間違ってはいないのだが、男子高校生たちの想像とは全く違う内容だ。
「相手の女子が気になるなあ。柏、顔見えなかったの?」
「見えなかったけど、体はちっちゃかった。だって、あいつが抱えて走れたんだぜ。もしかして小学生かな?やべー犯罪じゃん!!」
そこで一同が大爆笑すると、さすがに橘平のほうもそのグループに目が行った。
柏の顔を見つけた瞬間、橘平は血の気が引いた。げ、っと感じた瞬間、二人は目が合った。
橘平は急いで目をそらすも、柏はにやにやしながらわざと周りに聞こえるように「夜のがっこーできっぺーく見かけたんだよねー!」「ひとりじゃなかった気がするけど、だれだろー?」「女子だったなあ~」などと宣う。周りの友人たちも橘平をあざけるように笑った。
冷や汗、手汗、動悸、息切れが一気にやってきて、橘平はどうにかなりそうだった。
鮭の骨はとったはずだが、のどにつっかかっている感じがして気持ちが悪い。
優真が心配そうに声をかけた。
「どうしたの?大丈夫?」
「あ、ご、ごめん、あの、教室戻る!」
急いで弁当をまとめ、橘平はご飯を半分も食べないうちに、屋上の扉を開けて出て行った。
それを見て柏たちはさらに大声で笑っていた。
「悪いことするからだぜー!」
「小学生と夜の学校で何してんのー?」
厚い扉の向こうから、そんなヤジが聞こえる。
橘平はぎゅうっと拳を握る。
「桜さんは何も悪いことはしてない。俺だって何にも…何も!」
橘平は屋上の扉を勢いよく開け、柏を睨み大声で叫んだ。
「うちの!!!!犬だよ!!!!!!」
そしてまた優真の隣に座り、残りの弁当を勢いよくかっ食らい始めた。
桜のことはバレてはいけない。けれどここで逃げたら、柏たちが考えているような事があったと認めることになる。それは桜に失礼だ。争いごとは好まないが、今日の橘平は自分でも信じられないくらい、柏に負けたくないという欲が湧いた。
何も悪いことはしていない。ただのスパイごっこ。
橘平はがつがつと弁当を食べ続ける。
恥ずかしがったり、むきになって反抗したり、泣き出したりなど、柏たちが期待したような反応は返ってこず、つまんねーなあいつ、からかいがない、と彼らは興ざめしてしまった。
これによって、友人たちの前で恥をかいてしまったような気がした柏は、橘平に対して腹立たしさを覚えた。
豚肉をかみながら「絶対、女の子と、一緒、だったのに…!」と憎々しく呟いた。
夢を見た。
起きてすぐ、それが頭に浮かんだ。
『君は入口の絵、描ける?』
「入口の絵?」
『村の真ん中にある森に入るための。扉みたいなもんかな』
「森の扉って何?どういうの?」
『君の想像でいいんだ。森が開くような絵が描ければ。別世界への扉さ』
頭の覚醒につれ、橘平は夢の内容をキレイさっぱり忘れてしまった。しかし、何かに導かれるように、無意識に、鉛筆を手にしていた。
いつかの夢である。
◇◇◇◇◇
橘平は優真たち同じクラスの仲良し組とともに、高校の屋上で昼のお弁当を食べていた。
白飯の上に海苔が敷かれ、焼き鮭の切り身がまるまる乗っている。別の容器にサラダもついた、母の弁当。おそらく父も今頃、同じ弁当を食べているだろう。昼時に向日葵と話すこともあるのだろうか、と箸で鮭の骨を取りながら橘平は役場のことを考えた。
橘平たちのグループから少し離れた場所で、三宮柏も友人たちとふざけあいながら昼ご飯を食べていた。
柏は卵焼きを口にした時、橘平の姿に気が付いた。あの夜のことをにやにやしながら思い出し、友人たちに「この間の夜さ…」と話し始めた。
「きっぺー?あの地味が?」
「うっそ、意外」
「いや、地味で目立たない背景みたいなやつこそ、裏でいろいろやってるんだって」
柏は悪意たっぷりに橘平を昼飯の肴にする。「裏でいろいろやってる」は意外にも間違ってはいないのだが、男子高校生たちの想像とは全く違う内容だ。
「相手の女子が気になるなあ。柏、顔見えなかったの?」
「見えなかったけど、体はちっちゃかった。だって、あいつが抱えて走れたんだぜ。もしかして小学生かな?やべー犯罪じゃん!!」
そこで一同が大爆笑すると、さすがに橘平のほうもそのグループに目が行った。
柏の顔を見つけた瞬間、橘平は血の気が引いた。げ、っと感じた瞬間、二人は目が合った。
橘平は急いで目をそらすも、柏はにやにやしながらわざと周りに聞こえるように「夜のがっこーできっぺーく見かけたんだよねー!」「ひとりじゃなかった気がするけど、だれだろー?」「女子だったなあ~」などと宣う。周りの友人たちも橘平をあざけるように笑った。
冷や汗、手汗、動悸、息切れが一気にやってきて、橘平はどうにかなりそうだった。
鮭の骨はとったはずだが、のどにつっかかっている感じがして気持ちが悪い。
優真が心配そうに声をかけた。
「どうしたの?大丈夫?」
「あ、ご、ごめん、あの、教室戻る!」
急いで弁当をまとめ、橘平はご飯を半分も食べないうちに、屋上の扉を開けて出て行った。
それを見て柏たちはさらに大声で笑っていた。
「悪いことするからだぜー!」
「小学生と夜の学校で何してんのー?」
厚い扉の向こうから、そんなヤジが聞こえる。
橘平はぎゅうっと拳を握る。
「桜さんは何も悪いことはしてない。俺だって何にも…何も!」
橘平は屋上の扉を勢いよく開け、柏を睨み大声で叫んだ。
「うちの!!!!犬だよ!!!!!!」
そしてまた優真の隣に座り、残りの弁当を勢いよくかっ食らい始めた。
桜のことはバレてはいけない。けれどここで逃げたら、柏たちが考えているような事があったと認めることになる。それは桜に失礼だ。争いごとは好まないが、今日の橘平は自分でも信じられないくらい、柏に負けたくないという欲が湧いた。
何も悪いことはしていない。ただのスパイごっこ。
橘平はがつがつと弁当を食べ続ける。
恥ずかしがったり、むきになって反抗したり、泣き出したりなど、柏たちが期待したような反応は返ってこず、つまんねーなあいつ、からかいがない、と彼らは興ざめしてしまった。
これによって、友人たちの前で恥をかいてしまったような気がした柏は、橘平に対して腹立たしさを覚えた。
豚肉をかみながら「絶対、女の子と、一緒、だったのに…!」と憎々しく呟いた。