第58話 橘平、父を部屋に連れてくる

文字数 1,425文字

「あ、そうだ!最近父さん、アクセサリー作りにはまってるんすよ」

「パパがアクセサリー??」

「意外っすよね。もともと、母さんにプレゼントするために作り始めたんです。細かい作業好きだからか、そこからはまっちゃって」

「へーへー、どんなの作ってんの?」

 向日葵はベッドから降り、丸テーブルに腕を付いて目の前に座る橘平にずいと近づく。

「主に女性もののネックレスとかイヤリングとかいろいろ。作り過ぎちゃってたまってるんです。向日葵さんと桜さん、良ければどうです?結構キレイっすよ」

 女性陣の目がキラキラし始めた。二人とも「見たい!!」と同時に発した。

「じゃ、持ってくるんで待っててください」

 橘平は立ち上がり、父のいる部屋へと向かった。

「あの素晴らしい折り紙作品をお作りになるんだから、きっとアクセサリーも素敵なんじゃないかしら」

 桜は期待に胸を膨らませる。向日葵もそれは同じで、桜と腕を組んで「楽しみ~!」とワクワクしながらアクセサリーを待っていた。



◇◇◇◇◇



「父さん、ちょっといい」橘平は2階の奥にある、四畳ほどの小部屋をノックする。

 ここは父の趣味部屋だ。家を建てるときに、わざわざ設計に組み込んだほどに所望した空間。それ以外は実花の好きにしていいという条件付きだ。

 幸次が扉を開けた。「何?」

「桜さんと向日葵さん、アクセサリー見たいって」

「本当に?」幸次の瞳に星が宿る。「すぐ行く」そういってA4サイズほどの小物入れを3箱手にし、趣味部屋を出た。



◇◇◇◇◇

 

 しばらくすると、口角の緩んだ幸次が橘平とともに部屋へ入って来た。

「俺のアクセサリーに興味持ってくれたみたいで。好きなの持ってってよ」

 幸次は丸テーブルの上に箱を置いた。桜と向日葵が思い描いていた「ハンドメイドアクセサリー」とは、一線を画す作品が並んでいる。

「ええええ!?これ、全部、八神かちょーが作ったんですかあ!?」

 向日葵は驚きと興奮で声が裏返る。桜は言葉がでてこない。

「そーだよ。結構上手でしょ」

 素人とは思えない作りで「デパートに売ってるレベルじゃないですか、これ!?」向日葵はそう表現した。

 興味のない葵ですら「これはすごい…」と零す。

 既存のハンドメイドパーツを改造したり、組み合わせを工夫して作っていると幸次は話す。しかし、きらめきが本物のジュエリーのようである。加工すればいいと幸次は何でもないように言うのだが、そんな簡単な技ではないだろうと思われた。

「実際にね、某高級ブランドのデザイン丸パクリしてるんだ。いわば海賊品だよねえ。これみて」

 と、幸次はプリントアウトしたデザイン元の画像を何枚か見せる。

 見分けがつかないほど酷似していた。出品したら捕まるかもしれない。

「あの、本当にこれ、いただいてもいいのでしょうか…?」

「どうぞどうぞ。作っても母や妻以外にプレゼントする人がいなくてさ。気に入ってもらえたならいくらでも」

「ええ、じゃあ……このペンダントいいですかあ?」

 向日葵が手に取ったのは、小粒のダイヤモンド風のペンダントトップがついたデザイン。シンプルで普段使いのしやすいものだ。

「いいよ。ちょっとかして」

 幸次はペンダントにエンドパーツとして小さな丸いチャームのような物をとりつけた。

「何つけたんですか~?」

「一応、俺が作った印。ブランドロゴ」

 チャームには八神家のお守り模様が刻印されていた。

 彼も八神家の人間であったのだ。それをみた橘平は思い切って、父に聞いてみた。
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