第44話 桜、初めてスーパーへ行く
文字数 1,332文字
橘平は日曜の朝から、桜、向日葵とともに、村唯一の食品スーパー「だいこく」にやってきていた。
村とはいえ、人口が減りも増えもしないおかげで、意外と人口の多いこの村には一応、小さいながらスーパーがある。今日は街の大型スーパーで月イチの超特売日があるせいか、弱小スーパーは日曜だというのにさみしさが否めない。
本日は八神家で段ボール開封の儀、の予定であったが、古い本が出てきたことから予定変更。古民家で本の内容発表の日となった。
せっかくなら、ついでに料理教室やっちゃお!という向日葵の提案により、現在、村のスーパーにいるのだ。
向日葵はお団子ヘアーで蛍光オレンジのニットに細身のパンツ、ロングブーツ。桜は淡いピンクのシャツに白のジャンパースカート。そしていつも通り可もなく不可もなくパーカーな橘平。そんな三人は今、肉売り場の前にいる。
向日葵は二人に問いかけた。
「さて、一般的な鳥の唐揚げのメイン材料はなんですか。はい、きっぺーちゃん」
「鶏肉」
「んなの当たり前でしょ。部位だよ部位」
「ええ?ぶ、ぶい?」
「そう。足とか胸とか内臓とかあるでしょ~?」
知らないんだきっぺーさん、と桜は得意そうに手をあげ、「モモ、もしくはムネ!」と答えた。
「そうそう!きー君が真っ先に思い浮かぶいわゆる一般的なとりからちゃんは、モモ肉ね。さっぱり食べたいときはムネ。手羽もおいしいね。ま、今日はふつーにモモ肉の唐揚げ作りま~す」
こーいうお肉がおいしいのよ、食べ盛りが2匹いるから大目に買おうね、味付けはこれね、など、向日葵による食材や量のレクチャーを受けながら買い物を進める。
橘平もたまに母の買い物にくっついていくが、いつも自分の食べたいお菓子をかごに入れたら、それ以外は興味なし。いつも「早く終わらないかな」と心の中でつぶやきながら付き合っていた。こうして、「何かを作る」という目的があると、料理について考えるし、周りの食材にも興味がでてくる。退屈を感じる暇がなかった。
橘平以上に退屈を感じずワクワクしているのが桜だ。「野菜ってこんなに種類あるんだ」「お肉って産地ごとに値段が違うんだ」「チョコってカカオの量ごとに分かれてるの?」と、コーナーごとにいちいちコメントがあり、まるで初めて来たようだ。
「初めて来たわ!」
まさかの初めてだった。
「料理のお手伝いはたまにするけど、買い出しまでは。バレンタインの時もひま姉さんが用意してくれるから、あとは一緒につくるだけで」
「甘やかしすぎちゃったかもね」
思っている以上に、一宮家は箱入りらしい。ほどよく適当に育てられた橘平には、信じられなかった。
「もしかして、コンビニも未経験?」
「コンビニはあるよ。学校のなかにある」
「あれは購買よ、さっちゃん」
「コンビニじゃないの?」
「じゃ、じゃあゲーセンは?」
「ない」
離れた学校に通っていることもあり、放課後はほぼ遊ぶ時間はないだろう。跡取りとしての勉強もあるだろうし、自由になる時間は少なさそうだ。そう考えながら橘平は質問を続ける。
「バーガー屋は?」
「ない」
「ファミレスは」
「それは家族と行ったことある」
橘平が思う以上に、桜は一般的な高校生が楽しんでいる多くを経験したことがなさそうだった。
村とはいえ、人口が減りも増えもしないおかげで、意外と人口の多いこの村には一応、小さいながらスーパーがある。今日は街の大型スーパーで月イチの超特売日があるせいか、弱小スーパーは日曜だというのにさみしさが否めない。
本日は八神家で段ボール開封の儀、の予定であったが、古い本が出てきたことから予定変更。古民家で本の内容発表の日となった。
せっかくなら、ついでに料理教室やっちゃお!という向日葵の提案により、現在、村のスーパーにいるのだ。
向日葵はお団子ヘアーで蛍光オレンジのニットに細身のパンツ、ロングブーツ。桜は淡いピンクのシャツに白のジャンパースカート。そしていつも通り可もなく不可もなくパーカーな橘平。そんな三人は今、肉売り場の前にいる。
向日葵は二人に問いかけた。
「さて、一般的な鳥の唐揚げのメイン材料はなんですか。はい、きっぺーちゃん」
「鶏肉」
「んなの当たり前でしょ。部位だよ部位」
「ええ?ぶ、ぶい?」
「そう。足とか胸とか内臓とかあるでしょ~?」
知らないんだきっぺーさん、と桜は得意そうに手をあげ、「モモ、もしくはムネ!」と答えた。
「そうそう!きー君が真っ先に思い浮かぶいわゆる一般的なとりからちゃんは、モモ肉ね。さっぱり食べたいときはムネ。手羽もおいしいね。ま、今日はふつーにモモ肉の唐揚げ作りま~す」
こーいうお肉がおいしいのよ、食べ盛りが2匹いるから大目に買おうね、味付けはこれね、など、向日葵による食材や量のレクチャーを受けながら買い物を進める。
橘平もたまに母の買い物にくっついていくが、いつも自分の食べたいお菓子をかごに入れたら、それ以外は興味なし。いつも「早く終わらないかな」と心の中でつぶやきながら付き合っていた。こうして、「何かを作る」という目的があると、料理について考えるし、周りの食材にも興味がでてくる。退屈を感じる暇がなかった。
橘平以上に退屈を感じずワクワクしているのが桜だ。「野菜ってこんなに種類あるんだ」「お肉って産地ごとに値段が違うんだ」「チョコってカカオの量ごとに分かれてるの?」と、コーナーごとにいちいちコメントがあり、まるで初めて来たようだ。
「初めて来たわ!」
まさかの初めてだった。
「料理のお手伝いはたまにするけど、買い出しまでは。バレンタインの時もひま姉さんが用意してくれるから、あとは一緒につくるだけで」
「甘やかしすぎちゃったかもね」
思っている以上に、一宮家は箱入りらしい。ほどよく適当に育てられた橘平には、信じられなかった。
「もしかして、コンビニも未経験?」
「コンビニはあるよ。学校のなかにある」
「あれは購買よ、さっちゃん」
「コンビニじゃないの?」
「じゃ、じゃあゲーセンは?」
「ない」
離れた学校に通っていることもあり、放課後はほぼ遊ぶ時間はないだろう。跡取りとしての勉強もあるだろうし、自由になる時間は少なさそうだ。そう考えながら橘平は質問を続ける。
「バーガー屋は?」
「ない」
「ファミレスは」
「それは家族と行ったことある」
橘平が思う以上に、桜は一般的な高校生が楽しんでいる多くを経験したことがなさそうだった。