第50話 橘平、特技が発覚する

文字数 2,470文字

 今後のスケジュールが立ったところで、桜は「ところで」ときらっとした目を橘平に向けた。

「橘平さん、プラモデル!プラモデルはいつがいいかしらね!?」

「へえ!?あ、あああ、うんあれか。プラモデルは別にいつでも」

 葵と向日葵は不思議そうな顔で二人を見る。

「なんだプラモデルって」

「橘平さんのおじい様、プラモデル作りの達人らしいの。私プラモデルって触ったことすらないから、興味あって」

「あら、きっぺーちゃんのじいじ、モデラーなのねん。かわいい」

「かわいい?まあ、結構上手っす。コンテストで何度も賞とってて。うち、手先が器用な人多いんですよね。父親は折り紙が得意で、あ、折り紙っていうか模型の域。城とか竜とか人間とか立体的に作れるっていう…」

 葵は「八神」で思い出したことがあった。

「そういや、八神さんちって工務店やってるよな」

「そうだそうだ、村の家って八神工務店がよく作ってるじゃん!」

「そうっす。じいちゃんも大工でした。工務店、今はおじさん、つまり父さんのお兄さんに譲ってて」

 八神家の新たな情報に、葵は何かありそうだと考えた。

「まもりさんは手先が器用で、何でも作れる、だったよな」

「らしいっす」

「八神家はそういう血筋か。そこに何かありそうな気がするな」

「わ、確かに!少し八神家の秘密に近づけた気がする!じゃあ橘平さんも手先が器用なの?」

「いやあどうかなあ…」橘平は鼻を掻く。「器用かわかんないけど……絵は好き。俺の部屋に風景の絵があったの、覚えてる?あれ描いた」

「風景の絵?ああ写真の……絵?え?」

 桜の記憶では、どこか外国の風景のような写真らしきものがあったことは覚えている。あれのことだろうか。あれだとするならば。

「もしかして、ベッドの上にあったやつ?絵?え!?あれ、きっちゃんが描いたの!?」

「はい。まあ、あの程度なんすけど」

 桜はテーブルをバンと叩く。「程度じゃないよ!だって写真みたい、すごすぎ!」

 あれが絵だとするなら、桜の知っている「絵」ではない。一見すると写真にしか見えないような精密な絵を、この少年が描いたことに驚きを隠せなかった。

「すごくはないよ。AIみたいっていわれちゃうし」

「それだけ緻密ってことじゃないのかしら?」

「子供のころ、細かすぎて変とか言われたしさ。それにネット観ると、あの程度いっぱいいるし」

 向日葵が手を横に振る。

「いないから、すごいから!あれってどこの風景なの~?ヨーロッパ?アジア?」

「いろんな国の写真を参考に、旅行するならこんなところに行ってみたいなあ、っていう想像です。特定の場所は無くて。いままで描いた中で一番納得がいったから飾ったんです」

「ちなみに、画材はなんだ?」

「色鉛筆っす」

 驚くなんてものではない。3人は色鉛筆で写真を描ける人間に出会ったことがなかった。

「…橘平さんが絵を描いてるところ、みてみたい」

 それは葵と向日葵もかなり興味があった。

「描いてるとこなんて見ても、つまんないよ」恥ずかしそうに、頭をかりかり掻く。

 橘平少年はべらぼうに絵が上手いことが、今、発覚した。その事実と彼の絵から、向日葵は「もしや」と思いつくことがあった。

「きっぺーちゃん、絵の具の色塗りも得意かしら?」

「得意っていうか、水彩、アクリル、油彩、ポスターカラー、日本画、一般的なやつは一通りできますよ」

「ほんとすごいな。っつーか、日本画は一般的なのか…?」

「美術の授業でやるから一般的なんじゃないっすかね」

 向日葵はスマホの画面を橘平の目の前でぐいっと見せた。画面にはカラフルなネイルアートが並んでいる。

「きっぺーちゃん、これできそうだわ」

「これって…マニュキア塗るってことですか?」

「塗るのと絵を描くのと、両方!爪にも描けるでしょ、きっちゃんなら」

 メイク大好き向日葵だが、マニュキアを塗るのは苦手だった。練習は重ねたが、単色塗りすら満足がいかない。大好きな派手色はムラが目立ってしまうのだ。一応、今もマニュキアを塗ってはいる。けれど、比較的ムラができず目立たないファンデーションカラー系である。

「どーなんだろ…マニュキアなんて触ったことすら…」

「絵の具と一緒よ!あんなに絵が上手くて、しかも色合いもめちゃよかった。きっちゃんならできる!」

 向日葵は立ち上がり「ちょっと待ってて、家から持ってくるから!その間に塗り方動画でも見てべんきょーして!」と、つむじ風のように家に戻っていった。



◇◇◇◇◇



 少年は言われたとおり、塗り方動画を検索し、視聴した。

「はいはい、意外といけそうだな」

「ほんと?」

「うん」

「じゃあ私も塗…あ、明日学校だ」

「向日葵さんので上手く行ったら、今度塗るよ」

 ほどなくして、向日葵は自分のマニュキアコレクション、そしてアートに必要な道具一式を持ってきた。

 橘平は道具の使い方を確認し、まずは自分の爪で単色から試した。マットなネオンカラーで、ムラができやすいタイプだ。しかし彼は、ムラなく均一で、滑らかに塗り重ねる。次にフレンチ、グラデ、細筆を使ってチェック柄…とすらすらと描いていく。

「す、すごすぎるよ、きっちゃん…」

「そっすかあ?」

 絵も褒められ、ネイルも褒められ、今日は褒められ日和で、橘平は体中がむずむずした。

 練習が終わり、彼女が持参した本を参考に、本番である向日葵の爪にアートを施す。白をベースに塗りその上からひまわりの絵を描いたり、ベース色を変えてラメを載せたりしていった。

 その出来栄えに、向日葵は「超かんどー!!」し、桜は「今度私も塗って!」とリクエストし、葵は「本当に初めて?信じられん」と三者三様の感想を漏らした。褒められ慣れてない橘平は、首を掻いたり足の指を動かしたりと落ち着かない。

「ええ、じゃあさあ、もしかしてこーいうイラストも描けちゃう?こういうやつ」

 向日葵はまたスマホの画像を示す。動物や漫画のキャラクターなどを描いたネイルだ。

「多分。好きなキャラとか教えてくれれば練習しときます」

「あとで送るわ!」

 後日、橘平のもとにアニメキャラのイラストが送られてきた。
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