第8話

文字数 767文字

 彼女のアパートは僕の家から五分ほどの築30年は経とうかと言うほどのボロアパートだ。二階に昇る階段は軋みいつ崩落してもおかしくない。手摺は錆び付いており、下手にもたれれば手摺と共に落下してしまうだろう。

 鍵を開けて部屋に入る。

 真っ黒なカーテンが窓を遮り、部屋の様子がよく見えない。

 玄関でスニーカーを脱ぎ、部屋に上がる。部屋の中は乱雑としており、とても彼女の容姿からは想像も出来ない散らかり方であった。

 それでも久しぶりに女子と部屋で二人きりと言う状況に僕の雄の本能は刺激され、深々と彼女の部屋の空気を吸い込んで気を紛らわせようとするも、室内に干してあった彼女の下着類が目に入り、言われもしないのに床にしゃがみ込んでしまう始末であった。

 そんな僕を不思議そうに見下ろしながら、彼女は台所で湯を沸かし始める。

「散らかっていてごめんなさい、まさか人類をお招きするとは想定していなかったから」
 と呟きながら紅茶を用意してくれている。

 吊るされている下着から意図的に視線を外し、背筋を伸ばして座っていると、
「でも、我慢できなくて。ようやく見つけることが出来たのだから」

 そう言ってフッと微笑む彼女を呆然と見つめる僕である。

「これから話すことは、もちろん他言無用なのだけれど」

 湯呑茶碗に淹れられた紅茶を差し出しながら、
「翔くんが私の話を信じてくれるかどうか、少し不安だわ」

 そう言いながら視線を落とす彼女に、無意識のうちに君の話しは全て信じるよ、と答える自分にやや戦慄する。

「良かった。貴方ならそう言ってくれると信じていたの」

 僕の正面に座る彼女のスカートの奥に、神秘的な白色が垣間見えている。僕は唾を飲み込み彼女の話しは全て信じよう、そう誓う。

 誓った、のだが。

 これは、ちょっと……

「ねえ翔くん。ゼロポイントフィールドって知っている?」
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