第63話

文字数 634文字

 バスは15分ほどで発車し、市内を抜けて険しい山道をゆっくりと登っていく。乗客は僕らの他に湯治客らしき老夫婦が一組。終点の小さな温泉街へ向かうのだろうか。

 かなえの手を握る僕の掌はずっと汗をかきっぱなしだ。時折ジーンズで汗を拭うのだが興奮は抑えきれず、かなえの掌は常に僕の手汗で濡れている。

 目的のバス停を降りると、チラチラと雪が舞い始めている。山間部なので天気の崩れは早いのかもしれない。

 バス停からその神社は10分ほどだったが、聳り立つ山の中腹に位置するその神社までの道のりは険しく、急な石段を何度も滑りそうになりながら息を切らせて登っていく。

 ようやく辿り着いて後ろを振り返るも、雪雲が辺りを覆っており下界を見渡すことは叶わなかった。

 小さく古ぼけた社で二礼二拝一礼する。見渡す限り、この数日参拝客が来た気配がない。

 社からちょっと離れた所に小さな住居がある。木造の古い造りで意外に趣のある建物だ。

 かなえがバッグから鍵を取り出し、扉を開けると中から冷たい冷気が押し寄せて来る。中に入ると綺麗に整頓されており、かなえの部屋を思い返し人間やれば出来るものだとつくづく思ってしまう。

 客間には炬燵と旧式の石油ストーブがあり、かなえが火を付けると瞬く間に部屋はポカポカとしてくる。

 かなえが僕の隣に腰を下ろし、炬燵に入ってくる。

「ちょっと暑ぐなってぎだね」

 と言いながらセーターを脱いだ。静電気が弾ける音と脱いだ時に僕を襲った彼女の匂いが僕の本能スイッチをオンにする。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み