第36話

文字数 923文字

 中秋の名月の頃。

 かなえが僕に、ある儀式が必要となったのだが、一晩時間があるかと聞いてきたので、二つ返事で大丈夫だと答えた。

 きっと満月のパワーが何ちゃらだから、全裸になってほにゃららだろう、と想定し夕食後に彼女のアパートを訪ねた。

「各銀河の使徒達の意見なのだけれど。貴方の誠意を試す必要があるわ。これから学校に行きます」

 これは新しい展開じゃないか、と意気揚々とかなえと学校に向かう。そして許可なく学校に忍び込み、屋上に辿り着くと

「服を脱いで頂戴」

 来た来た、全裸展開! それも深夜の学校の屋上での全裸プレイ。僕はワクワクしながら服を脱ぎ捨てる。

「これから貴方の性根を試験します。全宇宙の使徒がこれを視察していますので、そのつもりで」

 そう言うとかなえも服を脱ぎだし全裸となる。

 中秋の満月に照らされた彼女の裸体の何と美しいことよ、僕は呆気に取られながら彼女の裸身を凝視する。

 かなえは例の踊りを舞い始め、全宇宙の何ちゃら、願わくば全てを見届けたもう何ちゃら、と言いながら横たわる僕の周りを歩き出す。

 これは絶景だ、月明かりがこれ程明るいとは思わなかった。彼女の全てが目の当たりにできるのだから。

 見慣れた筈のかなえの裸体に興奮を覚え始めた時。耳元でブーンという音が気になりだす、なんと藪蚊の大群が僕の裸体目掛けて進撃を開始したのだ。

 大の字に寝そべる僕の表面に数え切れぬ程の藪蚊がとまり吸血を開始する。その様子がホラー映画のようで思わず悲鳴を上げてしまう。

 そうなるとかなえの裸体を愉しむどころではなくなり、何十もの飛来者を叩き潰すことに集中せざるを得ない状況と化す。

 かなえは謎の儀式を続け僕の周りをぐるぐる回る。僕はひたすらに藪蚊を叩き潰す。かなえが儀式を終え、僕の己を覗き込み、満足そうに頷く。

「ああ良かった、やはり貴方は私の思った通りの人類だったわ。もし貴方が勃起していたなら、全宇宙の意思により貴方は抹殺されなければならなかったのよ」

 勃起って… 思わず吹き出すも、僕の胸から腹にかけて僕の意思により抹殺された藪蚊達の痕跡に一人戦慄する僕であった。

 そして。少なからず僕の己に存在する吸血の痕に、朝まで魘されることとなるのだった。
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