第3話

文字数 897文字

 古舘は田舎の女子らしくとても面倒見がよく、この土地を何も知らない僕に色々と教えてくれた。
 
 コンビニは夜11時まで。
 自転車に乗る時は要ヘルメット。(僕は彼女の髪型を眺めながら深く頷いた)
 クラスの半分ほどが原動機付き自転車、いわゆる原付の免許を保有しており、通学にも使っている。(ことに大変な衝撃を受けた。すげえな、田舎)
 普通科の生徒の殆どは地元で就職し、大学に進学するのは毎年十名ほどであること。

 部活動はそれ程盛んではなく、県大会に進む実力もないこと。僕は東京で部活を忌避していたので、これには少しホッとした。

 その代わり、季節ごとの行事、即ち春の大漁祈願祭、夏祭り、秋の収穫祭と文化祭には全校生徒が全力で挑み妥協は決して許されない、と聞きドン引きした。

「もしサボったり手抜いだりしたら、村八分になるがら気つけでね」

 僕が青褪めながら首を小刻みに振っていると、前の席に座っていた広田という大柄な男子が

「そったなこどねぁーがらさ。大丈夫だよ」

 と訛り全開で話しかけてくれ、以降この三人組で行動することが多くなった。

 古舘の父親は漁師で最近船を買い替えたそうだ。魚群探知機の話を振るとよく知っており、最新式のG P S付き魚群探知機の性能を褒めちぎってくれ、少し照れる。

 広田の親は農家で米を作っていると言う。自分も卒業したら跡を継ぐのだが、出来れば東京にある農業大学に進学したい、と明るく言い放つ。

 古舘に比して広田の方は東京にかなりの憧憬を持っており、僕が東京から来た事を知ると渋谷はどんな感じなのか、新宿は外人しかいないと言うのは本当なのかとあれこれ執拗に聞いてきて、多少げんなりとしたものだ。

 広田は僕の茶色に染めた前髪を触りながら、こんな田舎に越してきて辛いだろう、と言う。
 そんなことはない、むしろ気が楽だよと言うと首を傾げ、
「すぐに東京が恋しくなるんでねぁーが?」

 僕は首を振り、都会の高校で上位グループに属することの気苦労を色々語ると、
「マジが、めぢゃ大変だな」
 と同情してくれる。

 古舘はこのやりとりを冷笑しながら眺めている。

 気楽な高二生活はこうして緩やかに始まった。
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